p31 菌と捕食者と私(人類)の生活史

文字数 1,306文字

「私たちと捕食者に寄生する『リブズ・マン・アザーズ菌』。Rib(リブ)のRとMycorrhiza(マイコリザ)の『M』で略して『RM菌』と、軍が開発した対捕食者用の菌類『ブラザーズ・イン・アームズ菌』、略して『BM菌』についての説明を再開しましょう。
 

 永久凍土から出土した菌類、RM菌の発見者であり、最初の感染者でもある生物学者モス・ハンター博士の日記に、走り書きでメモされていた三つのスペル『Ribs』『Man』『Others』。


 日本語で直訳すると『肋骨』『人類』『その他』となりますが、我が国では三つ合わせて『リブズ・マン・アザーズ』を『道を分かつ者』と超意訳しました。


 これは聖職者でもあったハンター博士が、アダムの肋骨から生まれたイブの話からイメージを得てメモしたものではないかと言われています。

 アダムの肋骨から生まれた者の子孫ではない、人類とは別の進化を歩む者という意味合いとして使用され、各国で共通認知もされました。

と、言っても、既に滅んでしまった国もありますが。

 滅びた国のことを忘れないよう、その国の母国語由来の名前の方が、私も含めてたくさんいると思います。

 当時の人類に猛威を振るったRM菌は感染力・致死率が高く、何百年も経過した今も、当時のRM菌が詰まった触れることすらままならないガワが、今もみなさんの生活圏に生えていますね。

 しかし、時が経つにつれRM菌は徐々に弱毒化し、生物と共生するようになりました。

 そして、宿主(しゅくしゅ)がRM菌に害を()すと、対象の生物の捕食者を誘引して襲う、または、自らが捕食者として襲い掛かるという生態系へ変化を遂げました。

 なぜこのような変化を遂げたかというと、資源不足に陥ったためです。
 ここでいう資源とは、主に食料のことです。

 生物に寄生するRM菌と捕食者のRM菌は同じで、捕食者となってしまう生物と、そうならない生物の分かれ道は今も判別不可能です。

 そのため、各地で争いが勃発し、今も尾を引く根深い課題となっています。

 軍はこの恐るべきRM菌の、捕食者を誘引する揮発性物質(きはつせいぶっしつ)を応用し、その場に(もっと)(てき)した協力者を誘引する物質を発するBM菌を開発しました。

 毒を持って毒に対抗したと言っても良いでしょう。

 長い戦いの末、捕食者の中から言語を発する個体が出現し、人類と意思疎通を図り始めます。

 人類とコミュニケーションを図る穏健派の捕食者が中心となり、先の大戦の休戦宣言が為され、日本は今の平和が訪れました。

 しかし、我が国同様、今もRM菌の本能が強い捕食者や、新種の危険生物が闊歩(かっぽ)している地域もあり・・・・・・・・・・・・」

 退屈だが安心して過ごせる日常に戻り、ソロとキャピタルも授業を子守歌にやがて眠りについた。

 二度も三度も受けている授業は退屈で寝心地が良い。

 先生の声が耳に気持ち良くて、イヤフォンを外してソロも気持ちよく眠った。

 林田(仮)が真っ二つに折れて変色が始まっていることは誰もが気が付いていたが、暗黙の了解で騒ぎ立てる者は無かった。

 後日、しかるべき場所で葬儀が行われるだろう。
 捕食者の襲撃とは、それくらい頻繁(ひんぱん)で身近で起こる出来事なのである。

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