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文字数 762文字

  ソロは起き上がると、水たまりに顔を突っ込んだ奴の腹を思い切り蹴り上げ、立っている奴に向かって体当たりを食らわせた。
 
 組みついた相手から激しく拳を背中に打ち突けられ、ソロの力が(ゆる)む。
 
 離れる前に相手の横っ腹を一発ぶん殴ってやったが、うまく力が入らず大したダメージを与えることはできなかった。

 三人とも顔をブン殴ってやりたかったが、どいつもこいつも背が高くて手が届かない。

 後頭部に激痛が走った後、ソロは再び背中を蹴られて前のめりに倒れた。

 首から(にぶ)い音が聞こえた気がした。額から流れる血で前が見えない。

「税金泥棒が」

 結構気にしていることを言われてしまい、物理的ではない苦痛が体内に広がった。


 生爪(なまづめ)が剥がれてむき出しになった傷口に、物が押し付けられたような痛み。

「家族がいねぇからって、いつまでも被害者ヅラしやがって。働け」
「少しは遠慮しろ。俺らが払ってる金で学校来んな」
「視界に入るだけでイラつくんだわ。お前と、行方不明のアイツ」

 腹を蹴られ、顔を踏まれ、罵声(ばせい)を浴びせられる。

「お前みたいなやつが、一人減ってよかったぜ」

 林田のことまで(おとしめ)められて。

 でも、もう体が動かない。今日は朝からやられっぱなしだ。

 ツル太郎に締め上げられ軍人にビンタされ、夜はこうして卒業生にボコされている。

この世は敵だらけである。そもそも、ソロは何かとケンカを売られやすい。

 チビで弱いくせに群れないから、しょっちゅう誰かから目を付けられてしまう。

 それにしたって、自分は人類の敵なのかと思うほど他者から敵意を持たれやすい気がする。

 いちいち戦っていたら、こちらの身が持たない・・・・・・。

 物理的な痛みが精神的な痛みを上回ってきたところで、急に、相手の攻撃が止まった。

 何事かとソロが顔を上げると、三人組が皆同じ方向を見て固まっている。
 
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