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文字数 1,238文字

ソロが顔の血を雨で拭うと、暗闇にぼんやりと白い影が見えた。

「おい、何見てんだよ」

 三人組の一人が威嚇(いかく)すると、白い影がこちらにゆっくりと近づいてきた。

 雷に遅れて、耳をつんざくような轟音が辺りに響き渡る。
 かなり近くに落ちたようだ。
 
 あの影は、なぜ暗闇の中で薄っすらと白く見えるのか。

 腹に響くような雷の凄まじい轟音と、得体のしれない白い影にソロも三人組も警戒心が高まる。


 まさか、新種の危険生物か。


 最近だと、北九州の海岸付近で軍の防人部隊(さきもりぶたい)が交戦中というニュースが流れていたが、東京まで進出してきたのだろうか。
 
 とりあえず、動いているからガワでないことは確かだ。

 夜空にひときわ明るい光が走ると、白い影の正体が晒された。

 学生服の男だ。

 ガタイが良く、明らかに三人組よりも背が高い。

 ボリュームのあるハイトップフェードに、両サイドの髪を後ろに流している。

 この髪形が、男の上背を更に高く見せている。

 雨が降っているというのに、髪形が全く崩れていないところが不思議でならない。

 男は三人組の近くまで来ると、黙って見下ろした。

 ソロを助けるでもなく、三人組にケンカを売るでもなく、ただ立っているだけだが、男の迫力は凄まじい。三人がかりで戦っても勝てそうな気がしない。

 男の存在に圧倒されて、三人組は無言でソロから離れた。

 ある程度まで距離を取った後は、傘を捨てて走って逃げていった。

「なんだ、お前・・・・・・」

 ソロは佇まいだけで三人組を追っ払った男を睨みつけた。

「余計な真似しやがって・・・・・・」

「惨敗だな」

 通りの良い低い声だ。楽器のような響きを持った声音が、また(しゃく)に障る。

「いつまで地面に這いつくばってる」

 男は手を貸すでもなく、ソロが立ち上がるのを待っている。

 ソロは顔の血を雨で拭うとよろめきながら立ち上がり、街灯の下に放り投げた傘とリュックを取りに行った。持参した傘は壊れており、使い物にならなくなっていた。

 「ちぇっ、まあいいか」

 ウォークマンとイヤフォンが無事だったから良しとする。

 イヤフォンの有線をウォークマンに刺そうとしたところで、男から待ったが入った。

「俺も聞きたい」

「・・・・・・別に、いいけど」

 ソロはイヤフォンをポケットにしまった。イヤフォンを片方貸してやろうと思ったが、向こうの身長がデカすぎて届きそうもない。

 雨が顔の傷口に当たって痛い。
 目にも入るし(わずら)わしい。
 腕を額に当てて雨粒を凌いでいたら、何かがソロの頭にかけられた。

「行くぞ」

 頭にかぶさっていたのは男の学生服だった。

 ソロは学生服の下から街灯に照らされた男の顔を見上げた。

 彫りの深い整った顔立ちが自分を見下ろしている。本来何色なのかわからないが眉も髪も白く見える。

 太くがっしりとした首に厚い胸板。
 タンクトップから伸びる腕は筋肉質でたくましく、彫刻のような美しさがある。

 男にかぶせられた学生服からは、甘くすっきりとした清涼感のある良い香りが漂っていた。

「行くって、どこへ」
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