p94 浮島の女王

文字数 1,135文字

「お前のことじゃん」

 キャピタルの声でソロは目覚めた。

 キャピタルの顔が不思議そうに自分を見下ろしている。口をモグモグしているから、おそらくドッグフードを食っているのだろう。

 音楽はデータが一周して止んでいた。

「オレが・・・・・・、なんだって? 」

『レズギンカ』をかけて体を起こし、寝ぼけ眼でキャピタルを見た。

「なんて目つきの悪ぃクソガキ、って寝言。どー考えたってオメーのことじゃん。ホレ」

 キャピタルに折り畳みの鏡を手渡されて確認した。

「オレじゃん! 」

 夢の最後に出てきたクソガキの顔だ。なんて目つきの悪い。

「なんだ今更。お前鏡見んの初めてか」

 だが、夢の中の自分はもっと若かった、いや、今より幼かった感じがする。

「オレの顔! 」

 だが今も目つきが悪い。ひいき目に見ても悪い。

「わかったってば。しつこいぜ」

「オレの顔、誰が見てたんだ? 」

「知るかよ。鏡返せ」

「お前? 」

「なんでだよ。どこで」

「オレの夢の中」

「そんな世界線知らねぇよ」

「オレの夢じゃない、オレを見ている誰かの夢だったんだよ」

「わかった、わかったから鏡返せ」

 キャピタルでは話にならぬ。

「お前はダメだ。たぬキノコ、たぬキノコ」

「おれの目の前で、おれの悪口言うじゃねー。タヌキならとっくに浮島に上陸したぜ」

「今何時だ」

「12時」

「超寝過ごしてんじゃん。起こしてくれよ」

「甘えんな。それより」

 キャピタルが顎をしゃくった方を見ると、見慣れぬ物がノウゼンカズラの葉を食んでいた。

 山羊だ。

 白山羊がムシャムシャモリモリ葉を食っている。

 視界を巡らせば、ドームの中の葉がほとんど食われて隙間風が入ってくる。

「山羊っ、それ毒あるぞ」

「第一声がソレかよ。他に驚くことがあんだろ」

「うるせーな。何で山羊がこんなとこにいんだよ。オレにもわかるように説明してくれや、キャピタルさんよ」

「フツーはそれが第一声だろ」

「お気遣いありがとう、トロピカルなお坊ちゃん」

 ソロの脳内に透き通るような女の声が響いた。知的で凛とした力強さも感じる声音だ。

「しかし安心しろ。何を食しても私には菌類の加護がある」

 白山羊の頭から生えているきのこが青白く光っている。暗い場所で光るタイプのようだ。

「おっ、きのこから生えてる山羊か。仲間じゃん」

「なあソロ、山羊なんて言ってんの? 」

「安心しろ、だって」

 今はキャピタルは邪魔なので、超略して通訳した。

「そっちの大きいお坊ちゃんには翻訳デバイスを与えたんだが、我々も複雑な発声は出来ぬので、簡単なメッセージのやり取りしかできず困っていた」

「ネット使えんの? 」

 ソロの声に応える代わりに、白山羊が宙に視線を走らせると、空中ディスプレイが現れた。

 懐かしの文明の利器に、ソロとキャピタルは刮目(かつもく)した。
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