p117 えんじ色の根

文字数 878文字

 何が起こっているのか察したエロ銀杏は、火が燃え移った根状菌糸束を、自分を縛り上げているノウゼンカズラに引火させた。

「あっ」

 焼かれながら花を咲かせるノウゼンカズラが不憫(ふびん)で、ソロは自分がやっていることへの後ろめたさを感じた。

 ノウゼンカズラは更に増殖して、燃え跡さえも覆っていく。

 無尽蔵(むじんぞう)にソロから生えて来る。

 根状菌糸束が一斉に引っ込んだことで、キャピタルとブルーセルまでの道が開けた。

「ソローっ! 」

 キャピタルが手を振っている。

 二人の無事な姿が目に入って、ソロは思わず駆け出した。
 キャピタルのせいで、傷口が広がるような痛みを抱えているのに。

「ぱぴたん! 」

「ソロ、逃げろ! 足! 」

 ソロの視界が急に横倒しになった。

 エロ銀杏からエンジ色の根が一本伸びており、ソロの踵に刺さっていた。

 ノウゼンカズラが守ってくれるとタカをくくって、完全に油断した。

 ブルーセルが(ひづめ)で根を破壊しようとしたが、この一本は妙な弾力があり、傷をつけることも、火が燃え移っても表面が焦げる程度で離れようとしない。

 後頭部から伸びるノウゼンカズラは、本体を締め上げるのに精いっぱいなのか、ソロに刺さった根を攻撃する余裕がない。

「しっかりしろ! 」

 キャピタルの声も、ブルーセルの鳴き声も遠い。

「ソロ! 」

 たぬキノコの声も遠ざかっていく。

 炎の暑さも、キャピタルから伝わってくる熱も遠い。

 こんなに炎に囲まれているのに、寒い。
 こんなことが、ツル太郎に襲われたときもあったような。

 何者かに浸食を受けているような違和感が、体の内部を駆け巡る。

 内部から自分の意思が溶けて腐り始めているような感覚だ。

「きゃぴたん、帰れ」

 皮膚の内側を何かが這いまわっているような感覚が、ソロの不安を掻き立てる。

 ファンドのもとへ、キャピタルが生きて戻れなかったらどうしよう、という不安が。

「何言ってんだ、置いて行けるわけないだろ」

「オレ、へんだろ」

 それはキャピタルからも一目瞭然だった。

 ソロの皮膚の下を、何かが這いまわっている。

 ボコボコと大きく膨らんで、原型を留めていない場所すらある。
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