p137 気持ち良く負けろ

文字数 1,062文字

「でも、大丈夫。土日は校長先生のお宅へ帰るから、ソロたちにも会えるよ」

 急に社会人のようになってしまって、ソロはたぬキノコとの間に距離ができてしまったように感じて寂しくなった。

「心配しないで。僕、ソロのこと好きだよ」

 たぬキノコの気軽な声で、ソロは気が付いた。

 独占しなくたって、理解してもらえなくたって、この感覚で十分なのだ、と。

 意見が違う生き物同士、このくらいの軽さが丁度いいのだ。

「それじゃ、地上に帰ろうか」

 相撲の方はブルーセルがはたき込みでキャピタルに勝利し、勝ち名乗りをたぬキノコ一族から受けていた。たぬキノコ一族の幕下力士による弓取り式が行われ、『ぃよいしょぉーっ』の掛け声と共に四股を踏んでフィナーレを迎えている。
 
 その横で恨めしそうに勝者を見つめるキャピタルがいた。

「キャピタル。お前から仕掛けたんだから、気持ちよく負けろ」

「もう一回やる」

「オレを運ぶの手伝ってくれよ。たぬキノコ一族じゃ大変だからさ」

「言っとくけど、おれだってケガ人なんだからな」

 浮島の中でも最も発展した先進技術を有すると言われているたぬキノコ一族だが、ケガ人の運搬方法はアナログだった。
 高度をウンと下げて市ヶ谷駐屯地の上空に陣取り、タンデムスカイダイビングで地上に降下という乱暴な方法で帰還することになった。

 どこに落ちても大丈夫なように、軍人を配備してあるとのことだが、信用ならない。配備して欲しいのは軍人じゃなくてセーフティマットだ。

「他に方法ないんか? 」

「あるよっ。でも無いよっ。じゃ、僕はお先っ」

 たぬキノコと、インストラクターのタヌきのこ一族が勇ましく地上に向かってダイブする。

一方、添え木と布でおくるみ状態のソロは、なぜかキャピタルに抱えられている。

「おしっ、おれらも行くぞ」

「待て。何でオレたぬキノコインストラクターじゃなくて、お前に抱きかかえられてんの? 」

「タンデムだから」

 話が通じない。

「イヤな予感がするから置いて行け。オレは後で降りる」

「置いて行けるわけないだろっ」

 リョウのノウゼンカズラも無いのに、こんなところから落ちて失敗したら・・・・・・!

 なんて思っている内にキャピタルが降下してしまい、ソロは絶叫と共に落ちた。

 キャピタルは上手にケツからすべり込んで無事に着地できたのだが、あまりの恐ろしさにソロは空中でおでんの出汁を吐いてしまった。

「あー楽しかった! 」

 キャピタルは初スカイダイビングが楽しかったのか、例の鼻歌を縦ノリで刻みながら、地上で待機していた軍人たちと一緒にソロを担架に乗せた。


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