p36  浮島クエスト受注

文字数 822文字

「可能性はゼロじゃない。どうする、浮島の要求を受注する価値はあると思うんだが」
 
 今は顔も名前も思い出せないけれど、会えるのならもう一度会いたい。
 自分の思いを伝えたい。

 しかし、捜査の引継ぎがチビのバンクなのが気に食わない。

 (仮)がつかない本物の林田に再び会えることができたとしても、今後ヤツに頭が上がらないのは(しゃく)(さわ)る。

「私からも良い条件を出そう。タヌキに協力して無事に送り届けて帰ってくることができたら、その時点で二年生に進級だ」

「やるやる、やりまーす」

 ちょうど良いタイミングで買い物袋を抱えた半裸のキャピタルが、食い気味に校長室に入ってきた。

 廊下から校長の声を聞いて飛び込んできたようだ。

「おれ、進級したいです」

 だったら弁当以外も学校に持ってくるモンがあるだろう、とソロは思った。

「柴田さんとは話が付いたな。保護者の柴田少佐からも了解を得ているし。松本さんはどうする」

「フツーに考えたら富士山の高いトコから浮島に飛び降りるって、結構ムチャじゃねぇか? ヘリで送ってくれよ」

「ヘリが浮島にぶつかって壊れたらどうする」

「えっ」

 これが教育者の返答だろうか。

 しかも学内最高権力者の。

 本来、校長は教職に就いてはいけない類の人型きのこだ。

 ちょっと世間の感覚とズレている自覚が薄いのである。
「ソロ、引き受けようぜ。兄ちゃんが林田(仮)の調査してくれるんだぜ。ぜったい見つけてくれるって」

 たしかに、警察が行き詰っている事件だ。軍隊なら警察が知らない情報も持っているかもしれない。

「バンク、そういう調査が専門なの? 」

「知らね」

「じゃあヤだよ」

「なあソロぉ、頼むよぉ、おれ二年生になりてぇよぉ。いい加減進級しねえと、兄ちゃんに怒られるぅ」

「じゃー正攻法でなればいいだろ」

 すると、ソロの足元にたぬキノコがやってきた。

「ね、ソロ・・・・・・」

 こっそり、ソロにしか聞こえない信号を送ってくれた。
「バンク少佐が『さっきの弟にバラすぞ』って」
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