p70 キャピタルの彼女

文字数 803文字

「ここで食うのもナンだし、外行こうぜ」

「・・・・・・」

「おい、ソロ」

「うん・・・・・・」

「なんだよ、どうした」

「別に・・・・・・」

「お前最近めんどくさいぞ」

「そうかよ」

「なんか、めんどくさい彼女と一緒にいるみたいだぜ」

「お前彼女なんかいたことないだろ」

「いるし」

「ファっ? 」

 食欲と筋肉しか無いと思っていた男に、まさか彼女がいるなんて。

 今度は脳内に『雨の庭』が流れ出す。

「初耳だぜ」

「前も言っただろ。おれ、お前の一コ上なんだからな。そんくらい居たってフシギじゃねーだろ」

「彼女いるのに、大人の電話サービス利用したんか。高い電話料金を兄貴に支払わせて」と言いそうになったのを喉元でギリギリ押しとどめて、ソロは別の質問をした。

「や、一個上とかそういう問題なの? いつ、どこでどうやって出会ったんだ? 相手はこの学校にいるの? 」

「ホントめんどくせぇなぁ。外行くぞ」

 キャピタルはソロを肩に担ぎ、たぬキノコを小脇に抱え、弁当を持って銀杏が見えるベンチに向かった。

 ソロはそこでキャピタルに差し出されるがまま鮭のおにぎりを食べ、たぬキノコもお相伴にあずかった。

「キャピタルのお姉さんが焼いた魚はおいしいねぇ」

 たぬキノコはチラッとソロに視線を投げかけるが無反応だ。

 ソロはうつろな目で口に入れたものをずっと咀嚼(そしゃく)し続けている。

「ソロ・・・・・・」

 気の毒に思ってはいけないと思いつつ、たぬキノコの菌類一同はソロへ向けて同情の信号を送らずにはいられなかた。

「僕はギンナンを食べて来るね。気が向いたら、ソロも食べにおいでよ。一緒にお喋りもしようよ」

 落ちているギンナンをたぬキノコが食べているのを、ソロは(ほう)けた顔でずっと眺めていた。

 昨日から柴田一族にやられっぱなしで心が砕けそうだ。

「ん-んっんんんっんんーんっんっん、んんんーんんんっん、んんんっんー」

 隣でおにぎり食ってる奴が例の鼻歌まで歌い出すし・・・・・・。


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