p131 殺し文句

文字数 1,040文字

「ソロ」

 優しくて怖いリョウ。怖いのに泣き虫のリョウ。

「ソロ」

 謝らないといけないことが、たくさんある。怒った顔、やっぱりキレイだった。

「ソロ、起きろ」

 細胞核、とっとと交換しておけばよかった。
 怒った顔も、もっとよく見ておけばよかった・・・・・・。

「テメーなに寝たふりしてんだ! 今、薄目開けただろ! 」

「チっ・・・・・・」

 リョウに思いを馳せているのに、邪魔者がうるさい。

「なんだその態度は! おれがこんなに心配してやってんのに」

 ソロの態度にキャピタルはお(かんむり)である。

「うるせぇなぁ」

 ソロがそっぽを向くと、頬にぬるりとした感触が触れた。
 あまりのおぞましさに全身が粟立(あわだ)った。

「なに」

 思わず頬を手で触れようとしたが、痛みで動かせない。
 何やら鉄サビ臭が漂ってくる。

 目を開けてキャピタルを見ると、手のひらが血だらけだった。

 箸と一緒に握りしめている手斧の柄も血がしみ込んで変色している。

「お前っ、怪我ぁあだだだだだだ! 」

 起き上がろうとしたが、全身に鋭い痛みが走って、できなかった。

「根性きんしそくと綱引きしてっ時に、めっちゃ切れてたんだわ」

「言えよ! 」

「ソロだって手のひら血だらけだったじゃん。おめーと同レベルだと思われたら(しゃく)だからよ」

「なんだテメーその言い方はっ」

 不意に、温かい粘性を含んだものがソロの頬に落ちてきた。

「やんの、か、こら・・・・・・? 」

 キャピタルの目に、涙が浮かんでいた。
 泣きたいのを(こらえ)えているのか、急に黙ってしまった。

「泣いていいのに」

「そんなことしたら兄ちゃんに怒られる」

「泣きたいんだろ」


 どいつもこいつも、なぜ泣いてはいけないと思っているのか。
 泣きたいときに泣いておかないと、いざという時に涙が出てきて格好悪い思いをしてしまうではないか。

「おれが泣いたらおかしいだろ。こんな図体デカいのにさ、サイズXLだし・・・・・・」

「おかしくねぇよ。カッコいいもん、お前」

 キャピタルの目から、大粒の涙がこぼれて頬を伝って鼻に流れた。

 リョウの涙のように、キャピタルの涙はなぜ素直に重力に従わないのか。
 その光景を比較して、嫌な予感がした。

「元に戻ったと思ったらまたドロッドロに溶けちゃって、もう、おれ、わけわかんない」

「鼻水を拭け」

案の定、さっき鼻に入った涙が、鼻水と共に糸を引きながら落ちてきた。

それがソロの眉間に直撃した。

「ふ、ふぇぇええうえう・・・・・・ふんふんふうえうえうええ・・・・・うえうえうえうえええええ」

「泣きながら鼻歌すな」
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