p135 千秋楽

文字数 1,007文字

 キャピタルにお願いして翻訳デバイスを操作してもらい、白山羊に自分が根状菌糸束に内側からボコボコに膨張させられている例の写真を見せた。

 キャピタルが良い笑顔の。

「・・・・・・薄々感づいてはいたが、パピタンはちょっと壊れてるのか? 」

「人生の敵が身内にいるからな。大目に見てくれ」

「そうか。家族の形はいろいろだ。写真はブルーセルの部分だけ切り取って飾るとしよう」

「オレらも一緒に飾れって。もう一枚あるんだけど、それもキャピタルのデバイスに送れる? 」

「アドレスは。地上の通信インフラが復旧すれば、こちらからの送信を受け取れるだろう」

「キャピタツ、アドレス」

 キャピタルの音声が白山羊の空中ディスプレイに拾われて、脳みそが無いキャピタルと、根性菌糸束に内側からボコされたソロの素敵な二枚の画像は無事、地上に送られた。

 あとは通信インフラの復旧を待つばかりである。

「よしっ、やるか」

 白山羊からNGが出たのに、玉子を食い終えたキャピタルがブルーセルにがぶり寄った。

不意打ちを食らったブルーセルがわずかによろけたが、すぐに体制を立て直して取り組みが始まった。

「ブルーセル、置いてくぞ。もう帰るぞ」

 白山羊は怒っているが、介入はしない。誰も止めない。そんなことしたら死ぬ。

「ソロ、お疲れ様。ありがとう」

「たぬキノコ、オレ、お前に言わなきゃいけないことが」

 たぬキノコにどうしても言わなくてはならないことがある。ブルーセルとキャピタルが相撲を取っている横で言うべきことではないが、今しか無いと思った。

「右の腕が強いン゛ですっ!」

 やっぱり邪魔だ。だが、今しか無い。

「ごめん。オレ、好きなきのこがいる」

「いいんだよ、ソロ。これからも何でも愛して、自分も愛して、誰からも愛される生物になって」

「たぬキノコ・・・・・・」

「ぬンぎゅうううううう! 」

 たぬキノコのなんと寛容なことか。すぐ後ろから聞こえてくるブルーセルとキャピタルの荒い息遣いと掛け声が無ければ、きっと美しい出来事として記憶されただろう。

「そんな究極生命体にはなれねぇよ」

「ソロの菌類は侵略的で警戒されるし攻撃もされがちだけど、それを乗り越えた生物がいたはずだよ。だから、めげないで」

「ンンンンン゛ン゛ン゛! 」

「たぬキノコはオレのこと愛してくれんのかよ」

「ンンンンンンン゛! 」

「キミの愛って何? 」

「んんんがああああああああああああっ! 」

 ソロは言葉につまった。
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