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文字数 1,034文字

「ソロ、しっかりして。キミは恋に破れたわけじゃ無いんだ。キミはきっと、身近な女性に憧れを抱いていただけで・・・・・・」

 切ない。
 面白くない。
 別に誰のモノというわけでもないが、なんだか取られてしまったような喪失感。

「ねーちゃん、た、たぬキノコがふ、ふろ、ふろしき、風呂敷使ってくれってさ・・・・・・」

 ドビュッシーの『もう森へは行かない』がジワジワ脳内に浸食してくる。
 信じたくない現実が、脳内で流れる『もう森へは行かない』と一緒に迫って来る。

「ホント? 助かった」

 たぬキノコの唐草風呂敷をほどくと、ラップに包まれたサツマイモとリンゴ、ドッグフードが出てきた。

 丁寧に小分けでラップにくるまれている。

 誰かと一緒に食べるであろうことを想定していたような包まれ方だ。

「ありがとう、タヌキ。二人も私のお弁当食べてね」

 風呂敷でバスケットを包むと、ファンドは立ち上がってソロと目線を揃えた。
 ソロは泣きそうだった。

 今は全てが過去のもので、思い出に変わっている。

 その思い出が楽しかったことが大切なのであって、それ以上は望んではいけないことなのかもしれない。

夜青龍(よるしょうりゅう)。やっぱり雰囲気、すっごく変わったよ」

 そりゃそうだ。ゴリゴリの喪失感が頭に落ちて来たのだから。

「大人っぽくなっちゃったよね」

「それって、弱そうってこと? 」

「違うよ。なんだか・・・・・・、林田さんみたいだな、って」

「オレが、林田みたい? 」

 林田なんて今はどうでもいい。
 顔も声も思い出せない奴のことなんか。

「すごく落ち着いたコだったよね。まだ子供でいていいのに、大人みたいにものわかりがよくて、心配になるくらいだった。一回しか会ったことないけど、私、よく覚えてるよ」

「ごめーん、遅くなったぁ」

 買い物袋を持った邪魔者が颯爽(さっそう)と現れた。

「何だ姉ちゃんかよ。どうしたんだ」

「バンクに買い物頼まれたから、プロトタキシ―テス一緒に行けなくなっちゃった。代わりにこれ食べて。ちゃんとみんなで分けてね」

「ありがとぉ、姉ちゃん」

夜青龍(よるしょうりゅう)

 ファンドはソロに向き直ると、もう一度屈んで目線をそろえた。

「まだ子供でいていいんだよ」

 ソロにそう言い残し、職員用玄関から去った。

「よし、さっそく食うか」

「ソロ、キャピタルがお姉さんのお弁当つまみ食いしてるよ、止めないの?」

 ソロは職員玄関に立ったまま、ファンドに彼氏がいたという事実が十中十二割くらい頭を占めていて、林田っぽいと言われたことが0.1くらいの割合で心に残った。
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