p105

文字数 1,057文字

こんもりとしたシルエットが遠くに見える。

 白山羊の浮島のように、周囲が防風林で囲われているようだ。

 だが、地面は枝で埋め尽くされており、かなり荒れた状態となっている。

「以前ブルーセルが訪れた時よりも荒れているらしい。ナラタケの気配はそこら中からするそうだから、みんな気を付けろよ」

「どう気を付けろっつーんだよ」

「知らぬ」

「白山羊はなんでついてきたんだよ」

「私はタヌキの浮島のお偉いさんと交渉しにきたのだ。タヌキは交渉に使うから連れて行くぞ。ブルーセルをしっかり守るのだぞ」

「無茶言いうなよ。じゃあ、ブルーセルも連れてけよ、オレらはテキトーに隠れてっから」

「ブルーセルはやる気満々だ。私の言うことなんぞ聞きゃあしないよ。見ろ、あんなに(ひづめ)を鳴らして」

 確かに。メチャクチャ(ひづめ)を打ち鳴らしてブンブン角を振り回している。

 オマケに(ひづめ)から火花のような光がチラチラと散っている。

「ブルーセルの(ひづめ)は火打石のようになっている。灯りが欲しいときはアレを火種にするといい」

「なんなんアイツは。神獣か」

 キャピタルに頭突きしたり、腐っていない木の皮を食べたり、自由過ぎる。

「ソロ、こんな危険なところへ連れて来てごめんなさい。やっぱり、僕と一緒にエライ人たちのところへ」

「だめだ、まちゅもとソロとパピタンはブルーセルの用心棒だ。たとえその身が滅んでもブルーセルから離れるな」

「パピタンじゃなくてキャピタルだって」

「パピタンだろうがカピタンだろうが、ブルーセルから離れたら熊の餌にするぞ! 」

 白山羊の剣幕にたぬキノコとソロは怯んだ。

「な、なんだよ。ブルーセルのことになると妙にムキになるじゃんかよ」

「当然だ。ブルーセルは私の子供だ」

「固有名詞なんかどうでもいいって言ってたのに、ブルーセルは名前で呼んでいたのはそういうことだったんか」

「私がきのこになっても、ブルーセルだけは特別だ。宿主が腹を痛めて生んだ記憶が、脈々と菌類の隅々まで行き渡っている。愛しさも悲しさもひとしおよ」

「悲しさ? 」

「3年前のナラタケ退治で、私は自分の子供を三人連れて行かれて、生き残って戻ってきたのがブルーセルただ一人。上の兄二人は死んでしまったのだ」

 白山羊の横長の瞳が、心なしか潤んでいるように見えた。

「すまぬ、小腹が空いて取り乱した。その頭に生えている花をちょっと食わせておくれ」

「え、べ、別に、いいけど・・・・・・」

 突然の申し出に驚いたが、ソロは恐る恐る頭のノウゼンカズラをちぎって、白山羊の口元へ運んだ。

 痛くは無いが、ちょっと複雑な気持ちになった。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み