p18 勢いが良過ぎる曲 カルメン~第一幕への前奏曲~
文字数 1,874文字
「ソロ! 」
キャピタルが慌てて蔓 の中に手を突っ込んだが遅かった。ソロの体はうごめく蔓 の中へ消えてしまった。
引き込まれた蔓 の中で、ソロは信じられないものを見た。
緑一色のうごめく蔓 から人の形を成したものが現れた。
針金のような黒髪だ。襟足 に掛かる黒髪も芯が通っているかのように硬く見える。
姿かたちは人類と相違ない姿だが、その緑色の瞳に宿る虹彩 は、幾重 にも重 なった同心円 を描いている。
切れ長で目尻が吊り上がった同心円 の瞳は涼しげで、端正 な顔立ちだ。
おびただしい数の蔓 を従えるその姿は、人類と袂を分かつ者、捕食者。
だが、人類に似ていようが顔立ちが端正だろうが、ソロには関係なかった。
「捕食者が」
ソロは蔓の捕食者が自分の射程距離に入った瞬間、顔面に拳を叩きつけた。
蔓 の捕食者は面喰ったのか、殴られた衝撃で後ろへのけぞった。
「よくも、林田(仮)を! 」
蔓 から人型になったことで殴れる面積がわかりやすくなり、むしろソロには好都合だった。
人型になった捕食者を、力いっぱい殴って頭突きも食らわす。
捕食者の端正な顔から赤い鼻血が噴き出し、ソロは思わず言葉が漏れた。
「人間と同じ色の血」
ソロの言葉に、同心円 の瞳が憎悪 で燃え上がった。
針金のような黒髪が一斉に逆立ち、殺意がソロに向かって一斉に放たれる。
怒りの感情のおかげで動き回ることができたソロだったが、蔓 の捕食者から全身全霊を持って向けられた殺意に足がすくみ、一気に動けなくなってしまった。
蔓 の捕食者の手が首元に伸びたが、すんでのところでソロの体が後ろへ引っ張られた。
キャピタルの腕が手探りでソロを掴んで、うごめく蔓 の中から脱出させてくれたのだ。
キャピタルはソロを抱えて教室の外へ避難しようとしたが、背後から無数の蔓 に追撃され、二人とも床に押さえつけられてしまった。
「見慣れない菌類と軍隊が現れたから何事 かと思えば」
蔓 の捕食者の声は女にしては低く、男にしては高過ぎるトーンだった。
菌根菌 や揮発性物質 ではなく、口から発声しているのがソロには意外に思えた。
「ただの人間と、きのこに成り損ないの中途半端な生物しかいないとは。がっかりだ」
ソロだけが蔓 の捕食者の目の前まで引きずり出される。キャピタルはうつ伏せに倒れたまま動かない。直撃を食らって気絶しているのか、それとも・・・・・・。
「きゃぴたん! 返事しろ! 」
最悪の結末が頭をよぎって、ソロは悲鳴のような声で呼びかけた。
「人間の心配なんかしている場合か? 」
腕を蔓 に変化させた捕食者の緑眼 が、怒りに満ちている。
「よくも人間と同じ血の色などと」
憎悪 で燃えたぎる同心円 の瞳に、ソロの中の菌類たちが一斉に震えあがる。
天敵を前にして、菌類たちの恐怖と人間の感情がせめぎ合う。
どちらも『隠れろ』『逃げろ』と戦意喪失を声を大にして訴えかけてくるのだが、もう一つ、奇妙な感情が混ざっていた。
「なんかお前、どこかで」
蔓 の捕食者を至近距離からまじまじと見つめて、ソロはどこかで、この顔を見たことがある気がした。
なんだか、妙に懐かしくすら感じるのだ。
しかし、蔓 の捕食者はソロの体を締め上げると、そのまま床に叩きつけた。
息もできない、身動きも取れない。だが、ソロの口から笑いが漏れた。
「何がおかしい」
「別に・・・・・・。お前の顔、ボコボコにできて良かったな、って」
ソロは更に鼻で笑った。
「中途半端な生き物に鼻血が出るまでぶん殴られて、お前も災難だな」
首に絡みつく蔓 に力が籠 り、肉に食い込む。
林田(仮)は死んでしまったけど、もう誰かに落書きされる心配はない。
あとはこの蔓 の捕食者を睨 みつけたまま死ねればそれでいいとソロは思った。
蔓 の捕食者の注意が自分に向けられている間に、もし生きていたなら、キャピタルが意識を取り戻して逃れられれば、なお良い。
しかしこの蔓 の捕食者、どこかで会ったことがある気がする。
それに『見慣れない菌類』とか『ただの人間ときのこになりそこないの中途半端な生き物しかいない』と言っていた。
「お前、何なんだ? 何か探しにきたのか・・・・・・? 」
「知ってどうする」
首筋から噴き出す血が短ランとワイシャツに染み込み、全身が寒くてたまらないのに、ウォークマンから『カルメン~第一幕への前奏曲~』がノリノリで聞こえてくる。
死に際 の曲にしては勢いが良過ぎる。
「ちょっとノクターンの二番にして」とソロが思っていると、横から大きな衝撃が伝わってきた。
同時に、捕食者の蔓 がソロの首から急にほどけた。
キャピタルが慌てて
引き込まれた
緑一色のうごめく
針金のような黒髪だ。
姿かたちは人類と相違ない姿だが、その緑色の瞳に宿る
切れ長で目尻が吊り上がった
おびただしい数の
だが、人類に似ていようが顔立ちが端正だろうが、ソロには関係なかった。
「捕食者が」
ソロは蔓の捕食者が自分の射程距離に入った瞬間、顔面に拳を叩きつけた。
「よくも、林田(仮)を! 」
人型になった捕食者を、力いっぱい殴って頭突きも食らわす。
捕食者の端正な顔から赤い鼻血が噴き出し、ソロは思わず言葉が漏れた。
「人間と同じ色の血」
ソロの言葉に、
針金のような黒髪が一斉に逆立ち、殺意がソロに向かって一斉に放たれる。
怒りの感情のおかげで動き回ることができたソロだったが、
キャピタルの腕が手探りでソロを掴んで、うごめく
キャピタルはソロを抱えて教室の外へ避難しようとしたが、背後から無数の
「見慣れない菌類と軍隊が現れたから
「ただの人間と、きのこに成り損ないの中途半端な生物しかいないとは。がっかりだ」
ソロだけが
「きゃぴたん! 返事しろ! 」
最悪の結末が頭をよぎって、ソロは悲鳴のような声で呼びかけた。
「人間の心配なんかしている場合か? 」
腕を
「よくも人間と同じ血の色などと」
天敵を前にして、菌類たちの恐怖と人間の感情がせめぎ合う。
どちらも『隠れろ』『逃げろ』と戦意喪失を声を大にして訴えかけてくるのだが、もう一つ、奇妙な感情が混ざっていた。
「なんかお前、どこかで」
なんだか、妙に懐かしくすら感じるのだ。
しかし、
息もできない、身動きも取れない。だが、ソロの口から笑いが漏れた。
「何がおかしい」
「別に・・・・・・。お前の顔、ボコボコにできて良かったな、って」
ソロは更に鼻で笑った。
「中途半端な生き物に鼻血が出るまでぶん殴られて、お前も災難だな」
首に絡みつく
林田(仮)は死んでしまったけど、もう誰かに落書きされる心配はない。
あとはこの
しかしこの
それに『見慣れない菌類』とか『ただの人間ときのこになりそこないの中途半端な生き物しかいない』と言っていた。
「お前、何なんだ? 何か探しにきたのか・・・・・・? 」
「知ってどうする」
首筋から噴き出す血が短ランとワイシャツに染み込み、全身が寒くてたまらないのに、ウォークマンから『カルメン~第一幕への前奏曲~』がノリノリで聞こえてくる。
死に
「ちょっとノクターンの二番にして」とソロが思っていると、横から大きな衝撃が伝わってきた。
同時に、捕食者の