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文字数 1,041文字

「オレのじいちゃんもきのこになったんだぜ。今、庭に生えてんだけど、マジで美味いから食いに来ないか」

「豊かなのは良いことだけどさ、それにしたって、この道は少し整備した方がいいよ」

 たぬきノコの気を引こうと誘ってみたが、どうでもいい話題でスルーされてしまった。

「みんなどうやって歩いてるんだい? 大きな倒木や、ひび割れたアスファルトは危険だよ」

「富士山が噴火した時に、こっちも大地震があったんだ。整備の手が回らなくて、そのときのままなんだ」

 割れたアスファルトから木の根と土が覗く小道を注意深く進んでいくと、親水緑道の中でもひときわ大きな桜の前に差し掛かった。

 太い幹に成人した人間が一人は入れそうな大きな洞があるにも関わらず、この桜は、春になると見事な花を咲かせる。

「この桜、とっくに寿命がきてるらしいけど、共生している菌根菌が養分を供給しているお蔭で、あと百年は生きられるだろうって言われてるんだぜ」

「すごいね。僕は昨日、この桜の洞の中で一晩過ごしたんだよ。改めて見ると、このオレンジの花を咲かせているやつに絡みつかれてすごいことになってるね」

「そのオレンジの花、ノウゼンカズラっていうんだ」

「良く知ってるね」

「オレんちに同じ種類の白いのが咲いてるからさ。すごいよな、桜を締め上げて自分だけが空に昇って行こうとしているみたいで」

「もっと高い木に寄生できたら、浮島まで伸びていけそうだね」

「浮島ねぇ」

 たぬキノコが言う「浮島」とは、生物からきのこが生え始めた始めた頃に、上空に菌類が集まって生まれた小さな島々のことである。

 時に活火山に衝突し、その衝撃で噴火を誘引したり、時に衛星や旅客機や戦闘機に衝突し墜落させたり、何かしらの物体に衝突しては崩壊・再生を繰り返す迷惑な島なのである。

 人類が築き上げた航空技術は浮島を避けて活躍するしか術が無く、大空さえも菌類の縄張りと化している。なぜ大規模な菌類の集合体が浮き続けることができるのかは、未だに解明されていない。

 ちょうど現在、江戸川区の空にも浮島の一つがのんびりと漂っている。

 先週から上空を陣取っており、布団が干せないだの洗濯物の乾きが悪いだの江戸川区民からブーイングが上がり始めている。
 
「菌類って不思議だよなぁ。オレが言うのもナンだけど」

「菌類といえば。僕、ここへ来る途中ですごく大きなきのこの一群を見たよ。開けた場所に出たら、大きな建物に紛れて、ドーンって大きなきのこの一群が生えているのが見えたんだ。びっくりしちゃったね」

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