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文字数 1,152文字

 だが、周囲を炎に囲まれて危機一髪の状況なのに、キャピタルの表情は生き生きとしている。

 常に頭の上に『 ? 』が付いている状態とは打って変わって、体を思い切り動かせる喜びと、いつ死んでもおかしくない危険な状況を真剣に楽しんでいるように見える。

 炎に照らされたキャピタルは、心底楽しそうに笑っていた。

「あいつ」

 キャピタルに何かあったら、ファンドに何と言えばいいのだろう。

「ノウゼンカズラのドームに、ケツが引っかかったまま、痩せるまで放置しておくんだった」

 フィジカルに全振りしたキャピタルだが、軍人などに絶対になってはいけない人種だとソロは気が付いた。

 怖いもの知らずなのではない、生きて帰る気が全くないから、あんな行動ができるのだ。

 バンクはそれを知っているから、軍隊に入ることを猛反対したのだ。

 ソロはそのことにやっと気が付いて、今更ながら、後悔と責任と、罪悪感が湧き上がってきた。

「つまんねぇこと考えてないで、ねーちゃんのとこに生きて帰してやらねぇと」

 ソロは木々に(つる)を伸ばし、闇に紛れてエロ銀杏気に気が付かれぬよう至近距離まで近づいた。

 地上からの炎の灯りに照らされて、今まで餌食(えじき)になった生物たちの骨が、本体が見えないほど密集している。

 まるで戦利品のようにぶら下がった骨の中に、妙に目を引くものがあった。

 煙の中で目を凝らすと、ひと際巨大な角が見えた。
 巨大な角を(ゆう)した山羊の頭骨が二体いる。

「ブルーセルの兄ちゃんたちか」

 角のねじれ具合がブルーセルと同じだ。

 あんなデカい山羊二匹に加えて、先進技術を有した浮島商工会の精鋭部隊が敗北した生物を退治などできるのだろうか。

 不安がソロの脳裏をよぎる。

 だが、キャピタルとブルーセルを、家族のもとへ生きて帰してやらねば。

「たぬきノコ、なんで浮島商工会の部隊は負けたんだ」

「ブルーセルが組まれた時の討伐隊は、菌類を宿していなかったのが仇になって、全滅した」

「言葉が通じなかったんだな」

「そう。力は強かったけど、言葉が通じなかったせいで統率が取れなかった。そのせいで死んだ。たぬキノコ一族部隊は、意思疎通ができたけど、力で負けた」

 その時、巨大な枝が地上のキャピタルとブルーセルを薙ぎ払おうと、大きく振りかぶった。

「ピャピタん、ブルーセル、危ない! 」

 ソロの後頭部からノウゼンカズラの(つる)が勢いよく伸び、エロ銀杏の枝という枝に巻き付き、次々とオレンジの花を咲かせた。

 ノウゼンカズラに巻き付かれた枝は、花が咲くと枯れ果て、力なく本体にぶら下がったまま動かなくなっていった。

「お前、養分を吸って花を咲かせてたんか」

 花が咲く工程を初めて目の当たりにして、自分の後頭部から伸びるノウゼンカズラを初めて恐ろしいと思った。

 ガラテアの『食害』が脳裏をよぎる。

 
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