第30話 1月6日。これから。

文字数 2,250文字

2日の晩に行ったバーベキューの宴のように、避難所の校庭にバーベキューセットと焚き火が用意され、自宅に戻った人も家にある食材を持って避難所に戻ってきて、宴会が行われた。

お義父さんが言っていたように本当に豊漁で、沢山の魚が用意された。
珠洲のお年寄りは男女問わず見事に魚を捌く。
ペットボトルしか水がないので、ほとんどの魚は最低限の内臓だけを取り、串に挿して塩を振っただけの丸焼きだ。
そんなワイルドな晩餐だったが、多くの人が喜んでくれた。
昼間のお義父さんのように、避難している方は暖かい手作りの料理を求めている。
新鮮な魚はどんな加工でも美味しい。
給食室から大鍋をお借りし、海鮮がたっぷりはいったお味噌汁が抜群だ。
金沢から持ってきた日本酒の菊姫もすべて振る舞って、民謡も飛び出し、にぎやかな宴となっていた。

宴も終わり焚き火も小さくなった頃、お義父さん、お義母さん、隆太さん、清恵さん、はるき君、ともき君、僕の7人で体育館のパイプ椅子に丸くなって座った。
久しぶりに楽しかった、という会話も落ち着いた頃、僕は改まってお義父さん、お義母さん、隆太さんに切り出した。
「これからのことなんですが、しばらくの間、三月家の皆さんは、金沢で暮らすというのはどうでしょうか?」
金沢にいるときにレイちゃん、清恵さんと話し合ったことを珠洲に残っている3人に聞いてみた。
「お義父さんとお義母さんは、僕の実家。隆太さん4人は僕の家と分散することにはなりますが、車で30分ほどの距離なのでいつでも会いに行けます」
「まだ余震も多いし、電気や水道の目処がたつまでどうかなと、レイちゃんとも話したの。レイちゃんもお母さん達のこと心配しているし」
清恵さんもそう続けてくれた。

最初は清恵さんも子供たちを連れて珠洲に帰ると言っていたのだが、連日の報道を見てても復旧の見通しがつかない状況では、子供たちのためには金沢に居た方がよいと判断してくれたのだ。

お義父さんはみんなを見回して、最後に僕に視線を向けた。
「ありがとな、ナオ。だが俺とばあさまは此処にいる。生まれてから珠洲以外で暮らしたことねぇしな。死ぬときは、ここで、この海の近くで死にてえんだ」
お義父さんがそういうと、お義母さんも横で頷いた。

「俺も残る」
紙コップに残った酒を飲み干して、隆太さんも力強い瞳でそう言った。
「俺は漁しかできねぇし、ここを離れたくない。どんなに不自由だろうが、近所の人を助けてここで暮らす」
「それはわかるけど、、、」
清恵さんが言うのを遮って、隆太さんは続けた。

「はるき、ともき、お前らは金沢市の医王山スポーツセンターでしばらく暮らせ」
「スポーツセンター?」
言われた2人とも驚いた様子だ。僕も驚いた。
「まだ正式に決まったわけじゃないみたいやが、珠洲市の中学生は金沢市の『医王山スポーツセンター』に集団避難するという話があるみたいや。それまでは、すまんがナオの家に世話になって、集団避難が始まったらそこに移れ」
「けど」
「学生の本文は勉強や。ここではまともに勉強にできる環境でないのは確かや。当面は生きていくだけの活動でせいいっぱい。成長に必要な栄養のあるもんも食えん。集団避難だったら友達も一緒に避難することになるやろ。それが一番いい。あと清恵」
隆太さんは清恵さんの方に向き直した。
「お前はそのままナオのところにおらしてもろうて、子供たちを面倒見てくれ。医王山スポーツセンターへの避難が始まったら、その時の状況を見て、こっちに戻ってくるか、そのまま金沢におるかを判断しまいか」
「でも、、、わかったわ。そうする」
少しの間だけ悩んでいた清恵さんだが、子供たちのためにはそれがよいと判断した。

「ナオ、色々考えてくれてありがとな。そしてこれからも子供たちと清恵を頼む」
「わかりました」
「はるき、ともき、お前らはしっかり飯を食って、しっかり勉強して、しっかり遊べ。そして春になったら成長した姿で珠洲に戻ってこい」
うん、とはるき君とともき君は頷いた。
「その頃には水道も復旧しているといいんだけど」
お義母さんが不安そうに言った。
「そうやな。きっと春には直っとるやろう。今珠洲には全国の自衛隊、警察、水道、消防、電力会社、携帯キャリア、建設業、ボランティアなど日本の専門家が集まってくれている。きっと直っとるさ」
正直、断水や電気の復旧はおろか、道路もほとんどまともに通れいない壊滅的な状況を見ると春に復旧しているイメージは全くわかない。
ただ隆太さんの言う通り、日本の叡智が集まれば春には復旧しているのかもしれない。
少しだけ希望が湧いてきた。

焚き火も殆ど消え、寒くなったので、僕たちは底冷えする体育館で横になった。
朝まで居た金沢とのあまりの落差に、全員を金沢に連れて行かないという選択肢が本当にそれでよかったか、熟睡できない頭の中をなんども逡巡した。

寒さに震えながらも早朝からの疲れもありうとうとしていると、一斉に体育館にあるすべてのスマホから一斉に緊急地震速報が鳴り響いた。
震度6弱と緊急地震速報が伝えている。
みんな一斉に飛び起きる。
揺れが体育館を襲う。
「あれ、、、震度3ぐらいじゃない?」
予想より小さい揺れで首をかしげている。
スマホで情報を集めると、原発のある志賀で震度6弱だが珠洲を始め他は最大震度3以下とのことだった。
誤報の可能性もあるとのこと。
みんな人騒がせな、という感じで文句を言いつつ寒さの中再び床についた。
大きな余震でなくてよかったが、やはりここは臨界体制な場所だと身に沁みた。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み