第61話 3月2日。今後。

文字数 2,134文字

「そうか、大規模半壊か。。。」
三月家の茶の間で、お義父さん、お義母さん、隆太さん、清恵さんに集まって貰い、市役所貰ってきた罹災証明書を見せた。
いつも明るいお義父さんも流石に声が沈んだ。

「3件隣の龍ケ崎さんのおうちも、うちより全然新しくて、外から見ると被害がなかったように見えたけど『全壊』だったの。お家の中に入ると、全体的に海に傾いてしまっていて」
清恵さんが僕に教えてくれた。
「うちも海側の部屋は、明らかに傾いているもんね」
お義母さんも寂しそうに言った。
最初は傾いていないかと思われた海側の部屋だが、ガムテープを転がしてみると、勢いよく海側の方に加速していった。
「市役所の人もこの辺の海沿い一帯のエリアはみんな、液状化で海側に傾いていて、小規模半壊以上だと言っとったわ」
隆太さんが先ほど窓口で聞いた情報を皆さんに伝えた。
しばし重い沈黙が流れる。

「で、ナオ。専門家の立場でお前はどうしたらいいと思う?」
お義父さんが僕に聞いた。
みんなの視線が僕に集まる。
「そうですね。去年の補強工事のお陰で当面はよっぽど大きな地震が無い限り、この家が今すぐに倒壊する可能性は小さいと思います。
今まで通り、できるだけ海側の部屋は使わずに、表の増築した部屋と、母屋の道路側の部屋をメインに暮らしていけばよいと思います」
お茶を一口飲んで続けた。
「ただ、長い期間住むと、地震で開いてしまった建屋の隙間から家が次第に傷んでいきます。
何かしら本格的な対策が必要です。
1つ目は、今ある家を改修して住む案です。
建屋を一旦持ち上げて、液状化した土壌を改良して建屋を下ろすという工法もありますが、三月家の場合、建屋が大きくて構造も複雑なため、費用が多額になるので難しいです。土壌を改良しない限り、家を修復したとしても、また土台が傾く可能性があるので、土壌の改良は必須だと考えます」
「そうか。。。」
残念そうに隆太さんが答えた。
「2つ目は公費解体を利用して、一旦更地にして、土壌改良後、新しく家を再建する案です。強い家を作ることができますが、当然お金も時間もかかります。
3つ目は増築した建屋を残す案です。検査しないとわかりませんが道路側の土壌は恐らく頑丈と思われるので、海側の建物と母屋まで取り壊して、壊した後に海側の土壌改良後、新しく最小限の建屋を建てます。
恐らく水回りの配管などはそのまま使えるのではと思われるので、費用はすべて新築するよりは抑えらえると思います」
「おっ、それがいいがやない!」
お義父さんが嬉しそうに言った。
「ただその場合も新しく建てる部分をどこまで大きくするかによって、費用が大きく異なります。
今の家の大きさと同じ広い家を求めると当然高額になりますので、これからの三月家のライフプランと合わせて考える必要があります」
「そうね、、、はるきとともきがこの家に戻ってきても、高校を卒業後に家を出るとしたら、下のともきが今度の春で中2だから、、あと5年か。
二人とも5年後に家を出たら、今と同じ4人暮らしになるものね」
清恵さんが指折り二人の子どもの年を数えながら言った。
「5年後は私とおとうさんもいい年やし、亡くなったり、病院で暮らしているかもしれん。そう考えると今みたい普段は使っていない部屋がたくさんある家じゃなくてもいいかもしれんわ」
お義母さんも現実的な話をした。
土地柄にもよるかもしれないが、こういう未来の話をすると男性陣は至極夢見がちで、女性陣は現実的なことが多い。
「そうは言っても、もしかしたらはるきが結婚して、奥さんと一緒にこの家に住む、と言うかもしれんぞ」
お客さんを呼んだり楽しいことが好きなお義父さんは、大きな家派のようだ。
「そんな先のこと考えても仕方ないでしょ。もしかしたら高校だって、金沢の高校に進むかもしれないし」
お義父さんは、お義母さんに嗜められたが、まだ諦められないようだ。
「そうだ、レイやナオ達が夏休みや正月に来た時はどうする。部屋が無いと困るだろ」
「そうですね。その時は茶の間をお客さんが泊まれる部屋と兼用するなど、設計する時に要望を踏まえて色々考えます。
今すぐ結論を出さなければならないという話ではないので、1度皆さんでゆっくり考えてみてください。
さっき話した3つの案以外にも、山側に土地を買って家を立てるなど他の案もあります。
ここら辺りの土地の価格は、確か坪2万円程度。
今回の地震で珠洲の土地がさらに下落するか、再建のため高騰するかはわかりませんが、安全を優先するならそういった案も考えれます」
「俺はここがいい」
そこだけはお義父さんは譲れなさそうだった。
「僕やレイちゃんも金沢で考えてみます。
予算の上限もあるかと思いますが、一旦予算はおいといて、皆さんも今後どう暮らしていきたいかを含め、ゆっくり話し合ってみてください。
公費解体するにしても、恐らく倒壊の危険度の低い家まで解体が回ってくるのは、恐らく数カ月かかるので時間はまだまだあります」

大地震にもメゲずに明るく頑張ってきた三月家の人たちも、実際に大規模半壊の判定という現実を突きつけられて少ながらずショックを受けている。
僕もできるだけ早く、みんなが希望を持てるような「三月家復興プラン」を考えてみようと思った。
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