第8話 1月1日。再会。

文字数 1,201文字

「お父さんたちが帰ってきたわ!今車にいます」
19時を過ぎた頃、体育館にいる僕、お義母さん、はるき君、ともき君のところにレイちゃんが走って教えに来てくれた。
急いでみんなで車に向かう。

車につくと2人の顔を見れて安堵した。
しかし2人とも小刻みに震えており、憔悴した表情だ。
「宮前のじいさまを助けているときに津波が来てな。津波の高さは足首ぐらいだったので助かったが、津波があちこちにぶつかった飛沫を浴びて全身濡れてしまったがや」
震える声で隆太さんが言った。
「そこから30分ぐらいで何とかじーさまは出せたが、怪我しているところに津波に浸かってしまったこともあり、残念ながら助からんかったわ」
悔しそうにお義父さんが言った。
「他にも何軒か全壊した家の中から声が聞こえてな。助け出そうとしてみたが、どれももう人の力では助けだすことはできんかった。悔しい、悔しいのう」
お義父さんは涙を流した。

誰も声をかけられない。
それでもお義父さんや隆太さんと生きて再会できたことに、みんな涙を流した。
ただ、2人とも津波に濡れたまま遅くまで作業したせいかかなり衰弱している。
2人を運転席と助手席に座らせ、暖房を最強の強さに設定した。
レイちゃんと子供2人と清恵さんを後ろの席に座らせた。

今から三月家に戻って、お義父さんたちの着替えや毛布や食料を取りに行くことを提案したが、みんなから却下されたため明朝明るくなってから見に行くことにした。
情報取得のため、車のナビのワンセグを点けると輪島の朝市通りの火災がさらに大きくなっていた。
消火活動も倒壊した家屋に阻まれ行えていないようだ。
報道される珠洲の状況は、珠洲市役所からの定点カメラの映像が主で、飯田港にも津波が到達した映像や家が倒壊する映像が繰り返し流れている。
ずっとワンセグを点けていたいが、車のガソリンが切れるかもしれず、再び暖房のみとして僕たちは体育館に戻った。

寒い。
底冷えする冷たい体育館の床から、冷気が直接体に浸透していく。
震度4を超える余震も頻発し、とても寝られるものではない。
トイレも使えない。

たった6時間前の正月の団らんが夢だったように思える極限状態に身をおいている。
日常と非日常は隣り合わせと聞くけどまさにそれを実感した。
車内で聡と春香はどうしているだろうか。
昨晩一緒に過ごした金沢の僕の両親や、富山の弟家族は連絡の取れない僕たちのことを不安に思っているに違いない。
金沢の町家の設計事務所の同僚や、所長家族も心配しているだろう。

さっきからヘリコプターの音が聞こえている。
自衛隊の救助のヘリだとよいなと思う。
阪神淡路大震災のときは、報道のヘリの音で被災した住民の助けを求める声がかき消されたという話も聞いた。

色々な事柄が頭を過るが、とにかく明日の朝からしか動けない。
少しでも寝て、体の疲れを取って明朝から動けるようになるべきと頭ではわかっているが、今晩は寝られそうになかった。
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