第62話 3月3日。2千件待ち。

文字数 1,111文字

珠洲での避難所で町会長さんから、奥さんの本家のお墓が「中能登町」にあるので金沢への帰りに様子を見てきてくれないか、との依頼があった。
近辺に親類が誰もおらず、最近では年に1回お盆の時に町会長の家族がお参りするだけになっているお墓だという。
カーナビの目的地にお寺の電話番号を登録し、珠洲の帰り道に寄ってみることにした。

お寺は被害の大きかった七尾市街地から15キロほど離れた山の中だ。
七尾湾沿いを車で走ったあと、いつもは「のと里山街道」の徳田大津ICから金沢に向かうが、今回は山の中の道をカーナビの指示通りに進んだ。

中能登町にあるお寺「林照寺」。
思っていたより大きい本堂の立派なお寺だった。
本堂の脇を抜け、珠洲で町会長さんに描いてもらった地図を元にお墓の場所に行ってみると、多くの墓石が倒れていて、どれが町会長さんが指定したお墓かが現地ではわからなかった。

一度本堂に戻り、お寺に隣接されているお家のインターホンを鳴らすと年配の住職の方が出てこられて、お墓の位置を丁寧に教えてくれた。
やはり墓石が倒れていたお墓が、目的のお墓であった。
縁あってお墓を訪れることになったので、僕たちはできるだけお墓の周りの雑草を抜き、手を合わせさせていただいた。
帰りに住職にお礼を言って失礼しようとすると、お茶を一杯いただくことになった。

僕たちは珠洲の被災地の様子をご住職にお話させていただいた。
ご住職からは林照寺の震災時の様子を聞かせていただいた。
1月1日にここ林照寺も大きく揺れたが、幸い上下水道や電気のインフラに問題は発生しなかった。
しかし多くの墓石が倒れ、本堂の壁が崩れたりと被害は大きいという。
また本堂の柱を受ける土台石の礎石(そせき)と柱がずれてしまった箇所があるとのことだった。

林照寺さん自身のご先祖代々のお墓も、揺れで墓石が大きく飛ばされてしまった。
地震からしばらく経ってからお寺に出入りのある墓石業者に連絡したところ、現在の墓石の修理は「2千件待ち」とのことだった。
「2千件!?」思わず声が出てしまった。
林照寺さんも、一般の方と同様に修理の待ち行列に加わっているという。
いつ頃お墓の修理が行われるかは検討もつかない状況だ。

お茶のお礼を言って、林照寺を後にする。
帰り際あらためて本堂の下を見ると、確かに柱と礎石がずれてしまっている箇所が幾つかあった。
珠洲から100キロ近く離れた、ここ中能登町でも被害は大きかったのだ。

町会長さんにはスマホで撮影した倒れたお墓の写真と、住職から教えていただいた情報を送った。
すぐさま折り返しの電話がかかってきてお礼を述べられたが、「それにしても2千件かぁ」と果てしない待ち行列に町会長さんも驚いていた。
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