第57話 2月17日。ビニールハウス。

文字数 1,867文字

のと里山海道で通行可能な区間が2月15日から増えた。
金沢から奥能登に向かう片方向だけではあるが、「横田ICから越の原IC」という12キロ近くの長い区間が開通した。
緊急車両等のみの通行可能という制限はあるが、僕たちのように珠洲に実家がある者にとっては非常に助かる。
これでのと里山海道の残りの不通区間は「越の原ICから穴水IC」の4キロの区間を残すだけとなった。
片方向だけだが、もう少しで全線開通だ。

今週の珠洲支援は僕の番なので、開通したての道をライトバンで走ってみる。
車を走らせると復旧には程遠い、かなり強引な突貫工事であることがわかる。
道路は至る所で崩落し、土砂は崩れ、辛うじて残った片側車線をなんとか復旧した箇所が多い。
完全に崩壊した道路を、強引に迂回させるなどして何とか通行できるようにした箇所が次から次へと現れた。
道路も大きく波打っている。
急なカーブが連続し、少し速度を上げると車の底を隆起した道路にぶつけそうになった。
40キロの速度制限となっているが、それ以下の速度でしか走れない区間も所々にあった。
正直よく2ヶ月半でここまで開通できたと、総力を上げた工事の力に感心するばかりだ。
多くの箇所で反対車線の開通に向けて、引き続き工事が行われている。

発災後の対応として、「初動期、応急対応期、災害復旧・復興期」とフェーズが進むという。
初動期は人の命を救うことが最優先。
応急対応期はその後の復旧のための足がかりとなるべく準備期間。
災害復旧は、災害前の状態に戻すこと。
復興期は災害前より、安全な暮らしを実現したり、新たな産業を創出したりすること。

のと里山海道の現在の状況は、復旧には程遠く、応急対応期の仮復旧の状態だ。
それでも奥能登を復旧、復興に繋げるには、のと里山海道の整備が大前提だ。
そうしないと復旧に必要な人も物資も被災地に運べない。
よく一部の有名人や政治家が空路の「のと里山空港」経由で被災地に入り、復旧の遅れを嘆いたり政府の対応を攻めたりしているが、それは表面的なことしか見えていない人たちだと思う。
のと里山海道の復旧なくして、本格的な復旧フェーズには移れない、能登地方特有の地理的特性が現実問題として大きな壁になっているのだ。

車を走らせていると、今は使用ができない別所岳サービスエリアを通過した。
ここを過ぎた辺りに、「おとのみち」がある。
車を70キロで走らせると、NHK連続テレビ小説「まれ」の主題歌「希空~まれぞら~」が聞こえるという道路だ。
道路に掘られた溝で音程を作っているらしい。
今までは通るたびに子どもたちが大喜びしていたが、震災で道路が崩落や迂回路でツギハギされたため、途切れて主題歌が聞こえるのが少し寂しげだ。
「おとのみち」も含めてのと里山海道が「復旧」する日が来るのかは検討もつかない。

国道を走る区間が短くなったお陰で、今までより1時間ほど短縮され、4時間弱で珠洲にたどり着けた。
のと里山海道は仮復旧だが、確実に前進しているねとみんなで話しながら車を進めた。

珠洲の三月家に着くと、こちらは地震で全壊した斜めお向かいの家は潰れたままで1月1日から何も復旧していない。
水道も通っていない。
ただ近所の理髪店やコンビニが再開したりと少しづつは変化している。

避難所も物資は満たされ、温かい食事も提供されるようになった。
地元の理髪店も再開したので、いつも来てくれていた美容師の大花くんの出番も減ってきている。
認定された避難所では徐々に僕たちの支援もやれることが少なくなってきた。
今は家を修理したり、重機を動かせたりする専門的な要望が増えている。

今回は上戸小学校の避難所に行く前に、自主避難所の1つのイチゴ用のビニールハウスを開放した避難所を訪れた。
金沢のニュースでも報道され、気にはなっていた避難所だ。
珠洲は雨混じりの天気で、お昼から気温が急激に下がり5度ぐらいしかないが、ビニールハウスに入ってみると意外と暖かく快適だった。
何でも日差しがでるとビニールハウスの中は逆に暑いぐらいだという。
農業資材などを活用して水源を確保し、トイレや風呂なども整備している。
物資も今では十二分に支給され、最低限の生活は問題ないとのことだった。
山間の天馬さんの集落の暮らしより、このビニールハウスの避難所のほうがずっと快適だった。
ここではあまり僕たちが支援できることは無いようだ。

上戸小学校でもグラウンドに仮設住宅の建設が急ピッチで進められている。
今の状況では段々僕らの力では支援できることは少なくなったと実感させられる被災地支援となった。
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