第65話 3月12日。卒業。

文字数 687文字

「ほら。早く準備して」
レイちゃんに促されて、テレビに夢中になっていた聡が急いで着替え始めた。
今日は聡の保育園の卒園式だ。
僕も午前休暇を取得し、春香を着替えさせた。
生憎の雨模様の一日となったが、それでも家族で楽しく歩いて保育園に向かった。

卒園式が進み、児童達が声をあわせて感謝の言葉を述べると、先生や親がみんな涙した。
僕も視界が滲んで、動画の撮影がブレブレになってしまった。
名残惜しくお世話になった先生や、他の親御さん達と挨拶を重ね、家に帰ってきた。
卒園式の聡の写真を「三月家 珠洲⇔金沢」のグループに投稿すると、「卒園おめでとう!」と清恵さんから返事が来た。
お昼休みにはるき君からも「おめでとう!」の返事が届いた。

聡は春から地元の小学校に通う。
聡は僕の両親から買って貰ったランドセルを眺めながら、今は小学校生活を楽しみにしている。

同じ日ちょうど、珠洲の中学生も卒業式があった。
医王山スポーツセンターに避難していた珠洲の中学生達で3年生だけは卒業式に出席するため、ひと足早く珠洲に戻っている。
珠洲で通っていた中学校の体育館は、現在も避難所として使われているため、市の施設「ラポルト珠洲」での集団卒業式だ。
はるき君達のように、金沢や珠洲市外に避難している在校生が卒業式に参加できないのは残念だが、被災地の珠洲でも何とか卒業式ができたことに安堵した。

中学を卒業する珠洲の中学生たちは、大きな試練を抱えての中学卒業になる。
思い描いていた未来と異なる生活を送らねばならない生徒も多いだろう。
辛いことがあった分だけ、今後はできるだけ楽しい未来が待ち受けてくれることを願うばかりであった。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み