第15話 1月2日。能登はやさしや。

文字数 1,109文字

「なんだ!?」
「燃えている!?」

バーベキューの火の始末も終えて、焚き火もだんだん消えかけた頃、体育館の中から声が上がった。
声の方を見ると、避難している方が何人かで小さなスマホのワンセグ画面を見ている。

「どうしたんですか?」
僕も駆け寄ってワンセグのニュースを見ると、空港で飛行機が炎上している光景が移った。
「羽田で北海道の飛行機が何かにぶつかったみたいげんて」
先に放送を見ていた人が、目はスマホに向けたまま教えてくれた。
ジャンボジェット機が燃えているシーンが映し出されていた。
連続して爆発が続いている。

一瞬息を呑む。
「これは、、、搭乗している人は全滅かもしれん」
みんなが心に思っていたことを誰かが呟いた。
この飛行機にまだ残っている人がいたらとても生き延びれているとは到底思えない。

「なんちゅう正月や!」
誰かが吐き捨てるようにつぶやいた。

その後も小さな画面の周りに心配そうに集まってくる人が増えていた。
みんな声もなく、その報道を見つめている。

「もうスマホの電源切れそうや」
ワンセグを映していたおじいちゃんがいった。
「僕、モバイルバッテーリーあります」
僕は携帯用のモバイルバッテリーをそのおじいちゃんに渡した。

電力消費の激しいポケモンGOをプレイしているので、予備電源としてモバイルバッテリーは持ち歩いていたのだ。
「あんがとな」
僕の繋いだモバイルバッテリーで続けてワンセグは見ることができた。
スマホの小さな画面だが、次々と何かが燃えて、クジラのような大きなジャンボジェット機の機体を赤く染めているのが見える。

なんとも言えない重い空気が辺りを支配した。
ジャンボジェット機であり、乗員乗客が400人近くにもなるという。
こんな大きな地震の災害の直後にこんなことが同じ日本で起きるなんて。

「おおっ」
その時テロップが出て、乗員乗客は全員脱出できた模様とのアナウンスが流れた。

「よかった!」
「反対から脱出できたのか!!」
歓声があがり、その後拍手が巻起こった。
涙を流して喜んでいる女性もいる。

自分たちも大きな地震の被害を受けているのに、本当に能登の人は優しい。
「能登はやさしや 土までも」という言葉がある。
能登は人はもとより、土までもやさしいという農の風土を表していると同時に、能登の人は素朴で温かいという意味を表している。

まさにその通りだと思わずにいられない。
地震からみんなの心を重く支配していた暗い闇が、一瞬吹き飛ばされた瞬間に思えた。

ただその後に、ジャンボ機と衝突して炎上した海上保安庁の航空機が、能登に支援物資を運ぶための飛行機だったことが伝えられた。
そして海上保安官が亡くなられたニュースも流れ、体育館は再び重い空気に包まれた。
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