第１話　２０２３年１２月３１日。金沢で。

本物語は公開しながら書いていこうと思っています。
記憶が新しいうちに。
内容が変わるかもしれない点、ご了承ください。

以下の続編として記載しています。
興味のある方は以下を先に読んだみていただけると幸いです。
ポケモンGOであいましょう
https://novel.daysneo.com/works/085a16a7000c4011c6b127c388d93784.html

***
「仕事、、、納まった！」
CAD図面を送信するキーボードのリターンキーを押したときに思わず声が出た。
2024年の年明けから本格化する、金沢東山にある町屋改修の図面を送信できた。
12月31日と年の瀬、というか一年最後の日の朝、何とか間に合った。
家で図面が描ける時代になって、こだわればどこまでも図面を描き込める。
しかし二人の子供の父親となった今、無制限に仕事だけをしているわけにもいかない。
どこかで施主の理想と、自分のこだわりを上手く落とし込む必要がある。
最近ようやくその着地点が自分でもうまくできるようになった気がしていた。
まぁ大晦日の朝のぎりぎりまで仕事をしている時点で、まだまだなんだろうけど。

「ふーん、それはよござんしたねー」
キッチンでおせち料理を作っていた、レイちゃんが僕の言葉を聞こえたのか、皮肉っぽくそういった。
「ごめん、ごめん。今から家のことをなんでもやるから」
「じゃあ、子供たちの面倒と玄関とお風呂場の大掃除お願いね」
「了解です！」

レイちゃんこと僕の妻は、システムエンジニアとして産休明けで職場に復帰している。
システムエンジニアの業界ではお正月などユーザーが長期休暇になるタイミングで、システムの入れ替えを行うことが多い。
今年の年末年始は、子供が小さいこともあって、出社自体は勘弁してもらえたらしいが、大晦日、元旦と電話対応できるよう会社から言われているらしい。
幸い今のところ軽微な連絡だけのようだが、レイちゃんは精神的に落ち着かない年末年始を過ごしている。
今は今晩足を運ぶ、僕の実家に持っていくおせち料理を作ってくれている。
珠洲のお義母さんから教えて貰ったという、手製の煮しめと黒豆が美味しくて僕も正月楽しみにしている。

レイちゃんの機嫌を損ねないよう、リビングの子供たちを見た。
上の子の聡は5歳。年が明けて春になれば小学生だ。
少しおとなしいが妹思いの優しいお兄ちゃんだ。
僕やレイちゃんが今のように忙しいときは、妹の面倒をよく見てくれる。
今も膝の上に妹をのせて、最近よく見るようになった、ポケットモンスターの録画を熱心に見ている。

妹の春香はちょうど2歳になった。
僕は男兄弟で育ち、弟夫婦の子供も男の子ふたり。
僕の両親にとっては初めての女の子のせいか、厳格だった父が春香に対しては相好を崩して、猫かわいがりだ。
僕の実家は同じ金沢市内。車で40分ほどの距離なのでしょっちゅう両親にもあっているが、今日の大晦日も父が春香に会えるのを楽しみにしていると母から連絡があった。
春香は聡の膝の上で、アンパンマンの音の鳴るおもちゃで一生懸命遊んでいた。
もうちょっとは子供たちだけで持ちそうなかんじなので、急いでお風呂の大掃除を始めた。

***
夜は毎年恒例の僕の実家ですき焼きを見ながら紅白歌合戦。
7時過ぎ、富山に住んでいる弟家族も合流し、賑やかにテレビを囲みながら楽しい時間を過ごした。
いつもは8時過ぎには寝ている子供たちも、甥っ子である年上のお兄ちゃんたちに遊んでもらって、9時ごろまでテンション高く遊んでいる。
僕も最近は会う機会がめっきり少なくなった弟と久しぶりにビールを飲みかわす。
お互い仕事では中堅どころになって同じような悩みを抱えている。
昔は僕が兄貴面していたが、分野によっては弟の方が先行しているのが頼もしくもあり、少し寂しくもあり。
年を重ねるにつれてだんだん兄弟というより同志という感じになってきた気がする。
9時半過ぎ完全にうちの子供たちがダウンしてしまった頃、レイちゃんの運転で金沢市でも海側にある大野町の僕たちの家に向けて実家を出た。
実家には富山から来る弟家族が泊まって、家が近くの僕たちは家に帰るのが大晦日の定番になっている。
明日はレイちゃんの実家の珠洲に行くので、レイちゃんに深酒しないようにくぎを刺されていたが、楽しい時間はどうしても飲みすぎてしまう。
仕方ないわね、と許してくれるのがレイちゃんの優しいところだ。

2024年の年明けまであと2時間ばかり。
レイちゃんが運転する車の中で、ぼくはウトウトしつつ、人気のほとんどない大晦日の金沢の町中の風景をぼんやりと眺めていた。