第58話 2月18日。壊滅。

文字数 1,196文字

三月家に一泊して、翌日は山間の天馬さんの集落の避難所など数カ所を回った。
どこも少しづつ僕たちが支援できることは少なくなり、予定より早めに金沢に戻ることとなった。
マッサージの柳さんが「時間もあるし、見附島の辺りに寄ってから帰りませんか」と提案した。

珠洲市宝立(ほうりゅう)町鵜飼(うかい)にある、石川県天然記念物・名勝「見附島(みつけじま)」。その姿から通称軍艦島ともいう。
近くにはキャンプ場、フレッシュライン見附公園という豪快な遊具が揃った大きな公園、そして「のとじ荘」という宿泊もできる温泉施設がある。
僕も聡と温泉に入ったり、公園で遊んだりした思い出の場所だ。
公園は珠洲でのポケモンGOのスポットにもなっており、ポケモンGOのイベントの時は多くの人が集まったりしている。
のとじ荘の温泉は男女交代で日ごとに露天風呂が割り当てられ、海やライトアップされた見附島を見ながらの露天風呂は格別だった。

そんな家族連れにも大人気な一帯だが、今回の能登半島地震では地震と津波で大きな被害があった。
三月家裏の砂浜からも見附島の姿が見えるが、今回の地震や津波で完全に島の沖側部分は崩壊し島の形が変わってしまった。
三月家のお義父さんや隆太さんからも、見附島がある鵜飼は大変な惨状になっているとは聞いていたが、今までは支援で忙しく余裕がなかったのと、正直この目でその光景を見るのが怖く遠ざかっていた。

だがいつまでも目を背けては居られない。
柳さんの提案に同意して、ライトバンを見附島の方に進めた。
ファミリーマート宝達点の交差点を曲がると、すぐに見附島だ。
ファミリーマートの辺りも被害は甚大なのだが、少し進むだけで今までとは別次元の被災地の光景が広がっていた。

珠洲の市街地の飯田町あたりでは、外から見て木造家屋の10軒に1〜2軒ぐらいが全壊。
10軒に2〜5軒ぐらいが半壊といった感じだ。
勿論外から見ただけでは大丈夫でも、中に入ると被害が大きい家屋は多い。

ただここ宝立町鵜飼は木造家屋は、10軒中8件は全壊といった凄まじい状況だ。
それも1階が潰れただけではなく、津波の威力なのか2階部分も含め家が完全に破壊されいる家屋が多い。
ほぼ町ごと壊滅している。

今まで同じ珠洲市でも飯田町や上戸町で見た光景も心が痛む光景であったが、この鵜飼は見たものの心が潰れそうになってしまうような光景が一面に広がっていた。
人影もなく、何とか1車線だけが辛うじて通れるよう、道から倒壊家屋がどかされている状況だ。

結局見附島まで車を進められず、瓦礫で埋もれた町の中を折り返して珠洲道路に戻った。
「ひどい。。。」
美久ちゃんが絞り出したその一言は、みんなの言葉でもあった。
それ以外の言葉が出ないほど鵜飼の町は壊滅していた。
まるでゴジラのような大怪獣が歩き回ったような壊滅的な被害。

僕たちは何もできない無力感に襲われて、言葉少なに金沢への帰路に向かった。
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