第13話 1月2日。きのどくな。

文字数 1,100文字

荷物でいっぱいになった車で避難所の小学校に戻った。
真っ先に家族に上着を渡す。
少し低体温症気味のお義父さんには沢山の上着を着込んで貰った。
毛布も渡して、体にまとって貰った。

体育館内では石油ストーブが3台になっていた。
家庭から持ってきてくれた人がいるのだろう。

「おし、俺等ももう1回家に行って石油ストーブ持ってくるか」
隆太さんが言ってもう一度家に戻った。

三月家も現在は石油ファンヒーターやエアコンによる暖房がメインだが、電気の使えない状況では昔ながらの石油ストーブが役に立つ。
ポンプ小屋に閉まってあった2台の石油ストーブと玄関に置いてあった灯油タンク、それに他の人に渡す用の防寒具や毛布も持っていく。

避難所には着の身着のままの人が大勢いた。
僕たちのように自宅が辛うじて無事で、荷物を持ち帰れる人がいる一方、家が全壊してしまった人や、津波に浸水してしまった人などは荷物を取り出すことはできない。

できるだけ多くの防寒具や毛布を車に詰め込んだ。
「おっ、これも持ってっか」
「いいですね」
毎年夏に浜辺で使う、バーベーキューの用具一式や炭、紙の皿や割り箸がポンポ小屋に収められていた。

「どうせ冷蔵庫も使えんし、食材が腐る前にくっちまおうぜ。よっしゃ日本酒も持っていこう」
残った食材やお酒も車に詰め込む。

「こんな時やが、少し楽しくなってきたな」
「本当ですね」
辛い状況でも何らかの希望が必要だ。
「酒飲めば、親父もあったまるやろ」
お酒好きのお義父さんのことだから本当に治るかもしれない。

荷物が多くなり結局車には収まり切らず、3回目の荷物も車に積んで、避難所に戻った。
はるき君やともき君達にも手伝って貰って、持っていない方に防寒具や毛布を配る。

「きのどくな」
高齢者からお礼を言われる。
きのどくなは能登の方言で「すみません、ありがとう」の意味だ。

体育館の中は半分が単独か夫婦の高齢者だ。
3割ぐらいが地元の家族。
2割ぐらいが僕たちのような帰省者か。
若い人は車で家に帰ったりして、僕らと同じように当面の荷物を運んでいる。

その後僕は車がない高齢者を自宅まで運んで一緒に荷物を運び込んだ。
そこでも次々と「きのどくな」と感謝された。

はるき君たちは簡易トイレの穴掘り、レイちゃんは子供たちと一緒に構内の見守りとみんなが忙しそうに体を動かしている。
自分たちも被災者だが、より高齢の大変な方が多くいる状況では何らか忙しい方が気持ちが落ち込まずによいのかもしれない。

みんなで支え合い避難所は運営されている。
いたるところで「きのどくな」「あんがとね」といった声が聞こえて来る。

1月2日の日中はそうやって過ごしていると、あっという間に過ぎていった。
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