第20話 1月3日。日常。

文字数 866文字

七尾湾沿いの国道の渋滞はその後2時間続いた。
その渋滞を抜けるとのと里山海道の徳田大津インターチェンジに向かう山道に入る。
ここまで来ると道の破損箇所はほとんど見受けられない。
そこからは大きな渋滞もなく、山道をのと里山海道に向かって車を進めた。
ガソリンの燃料は随分少なくなってはいるが、これならギリギリ金沢の自宅まで持ちそうだ。

春香もぐったりはしているが、時折水分を取っては寝ている。
レイちゃんが自宅近所のかかりつけ医に電話して、三が日だが診察して貰えるように連絡がとれた。
珠洲では繋がりづらかった電話もこの辺りからは使えるようになってきている。

のと里山海道の徳田大津ICに到達した。
大渋滞の対向車線では警察が検問のように1台づつ車を停めて運転手と話をしているようだ。
恐らく緊急車両以外は進めないように管理しているのかもしれない。
多くは警察や自衛隊、消防車などの緊急車両に見受けられるが、普通の乗用車もかなりの数、混じっている。

奥能登の家族を救出に向かう人、ボランティア、報道関係者。
色々な事情があって奥能登に向かっているのだろう。
現地に居た実感としては、倒壊した家屋から人を救出するために自衛隊や医療関係者を最優先として欲しいと願う。
少しでも助かる命が増えればと。

徳田大津ICからは道は渋滞もなくスムーズに流れている。
しばらくすると日本海が見えてきて、のと里山海道が片道二車線区間となった。
そこはもういつもどおりの道の状況となっている。
行くときにも休憩で立ち寄った「志雄パーキングエリア」に車を停めた。

ここではトイレが使えた。
用をたして水で流し、手を洗える。
そんな日常が、思わず涙が出そうになる。
3日前には当たり前だったことが今では本当に特別なことになった。

トイレから戻ってきたレイちゃんの目も赤かった。
車内でみんなで日常のありがたさを語り合った。

夜6時を過ぎ辺りはすっかり暗くなったが街灯の光が辺りを明るく照らす。
停電して漆黒の世界となった珠洲とは大違いだ。
珠洲の家を出てから12時間。
日常に戸惑いながらも車を金沢に向かって進めた。
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