第60話 3月2日。大規模半壊。

文字数 1,262文字

今週は僕が珠洲の支援に向かった。
町家の設計事務所と普段取引のある施工業者3名の方をライトバンに乗せ、珠洲に到着した。

僕だけ三月家の前で車から降りて、皆さんには事前に打ち合わせしていた被災した各家を回って貰う。
三月家の軽自動車に乗りかえて、僕と隆太さんは珠洲市役所に向かった。

三月家の家屋の被害認定調査は終わっていて、手続きに必要な「調査済証」は何日か前にポストに投函されていた。
僕が来るタイミングで一緒に珠洲市役所に行ければと、清恵さんから事前に連絡があったのだ。
土日祝日も罹災証明の対応を行っているという。

珠洲市役所の窓口で30分ほど待たされた後、証明書発行窓口で「調査済証」を提出した。
しばらくして市職員の方が持ってきてくれた罹災証明書には、「大規模半壊」と判定が記されていた。
「大規模半壊、か」隆太さんは小声で呟いた。
前年2023年5月5日の震度6強の地震で、耐震の強化工事をしていた三月家。
そのおかげで今回建屋の倒壊を免れたかもしれないが、工事したばかりで隆太さんのショックは大きい。

その後職員の方が、現地で被害調査した際に撮影した写真を、プリントアウトしてくれて僕たちに見せてくれた。
写真は持って帰ることはできないとのことだった。

家の被害箇所をメジャーで測定し、海側の土台が15センチ近く沈下している写真などを元に、大規模半壊と指定された理由を説明してくれた。
ただ説明してくれている職員も建築の専門家ではない一般の職員の方なので、専門的なことはわからない。
判定に不服があれば再調査可能です、と説明するだけであった。
親切に説明をしてくれてはいる職員の顔には、明らかに疲労の色が見受けられた。
恐らく連日休みなく、遅くまで働いてくれているのだろう。

三月家は応急危険度判定の段階では、安全を表す緑色の調査済みの紙が貼られてはいたが、詳細な調査では土台には亀裂が入り、海側に地盤が傾いている点が問題視され、被害の重い判定となったようだ。
建築士である僕や所長も半壊以上の判定となるとは思っていたが、大規模半壊までいくとは思っていなかった。
上戸地区だけに限らず、海沿いの一帯が液状化により、地盤自体が沈下してしまっているとの説明があった。
三月家は庭が広く、少し浜辺から距離があったので全壊とはならなかったようだ。

大規模半壊では基礎支援金が50万円支給され、住宅の再建方法に応じて金額が加算される。
再建方法が「建設・購入」の場合は200万円。
「補修」の場合は100万円。
正直家を再建するにはあまりに少ない金額だ。

もしくは上記金額は受け取れなくなるが、公費解体も申し込める。
当面は倒壊寸前の危険な家屋が優先されるが、そのうち倒壊の可能性が小さい家屋も含め、半壊以上と判定された家屋はすべて公費解体の対象となる。

公費解体で完全に更地とするか、支援金を貰って修繕するかは被害の状況や今後の家族の方針も兼ねて決めるしかない。
支援金や公費解体の説明を一通り聞いた。
窓口で対応してくれた職員に丁寧にお礼を言って、僕と隆太さんは三月家に戻った。
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