第12話 1月2日。地震の破壊。

文字数 1,946文字

玄関は花瓶が割れたのか、ガラスが散らばっていた。
恐らく僕がみんなの靴を渡した跡に割れたのであろう、
危機一髪だった。

「先ずは一通り家の中を見てみよう。電気は、、、やはり点かないな」
隆太さんは玄関の電気のスイッチを何度か押したが、電気は点かなかった。
2人とも玄関のスリッパに履き替えて家の中を進む。
玄関から右手にあるお風呂はタイルが落ちて、中のものが散乱している。

台所は清恵さんにぶつかった食器棚が完全に倒れていた。
幸い他の食器棚は倒れず台所のシンクには進むことができた。
「水道はでないな。井戸水も駄目か、、、ポンプの電気がきていないし当たり前か」
珠洲の三月家では通常の水道の蛇口と、井戸水の蛇口が並んで設置されていて、台所の洗い物などは井戸水で行っていた。
夏は冷たく、冬は暖かい井戸水を重宝していて暮らしているのだ。
考えれば当たり前だが、井戸水はポンプで組み上げていたのか。
電気もなく水道も断水し、井戸水も使えない。

隆太さんはガスの元栓を締めて、表の増築した建屋に行く。
ここは地震の際にも通ったとおり、増築建屋と廊下の間に隙間が5センチほど空いていた。
増築の建屋の部屋の中には瓦が1枚落ちているがそれ以外は大きな被害はなさそうだ。
本棚や勉強机が倒れているが、建屋自体には変化は見られない。

「後であいつらに宿題持って帰らんとな」
隆太さんは踵を返して茶の間に入る。
茶の間には液晶テレビが倒れている以外は大きな変化はなさそうだ。
元旦に聡たちが遊んでもらっていたおもちゃもそのままの状態になっている。

みんなで大きなテーブルを囲んでいた海側の部屋に行く。
ここも食事やコップが転がってはいるが、大きな被害はなさそうだ。
ただ海側の窓には飛沫がぶつかった跡があり、窓には葉っぱなども張り付いている。
津波の直撃はなかったかもしれないが、窓に飛沫は当たったようだ。
「幸い思ったより津波の被害がなくてよかった。俺や親父が浸かった津波は川を逆流した津波やったんやな」
「そうですね。家も津波も接続部分など、弱い部分に被害が集中するんですね」
「ああ。被害の大小は紙一重やと俺も心底実感したよ」

二階に上がると階段と海側の部屋の間に10センチほど隙間が空いている。
これが下の土台で亀裂の入っていた部分の境目なのだろう。
隙間を覗くと下の家屋が見え、天井を見上げると隙間から空が見えた。

「こりゃあブルーシート早くかけんなんな」
「明日のお昼は雨の予報でした」
「そこまでには間に合わんな。風呂場のタライでも置いておくか。気休めにしかならんやろが。」
このままにしておくと次の大きな余震でもっと境目が開いてしまうかもしれない。
しかし今はまだ人命優先の状況で、家を直すのはまだまだ先と感じる。
僕は風呂場でタライとバケツを持ってきて、空が見える箇所に設置した。

僕たち家族の荷物がある、2階の海辺の客間も大きな被害は見受けられない。
僕は持ってきていた大きめのリュックとボストンバックに、春香のオムツや金沢の家から持ってきた家族の荷物を詰め込んだ。
隆太さんも2階の道路側の自分たちの部屋で、当面入りそうな身の回りの品をできるだけ詰め込んでいるようだ。

その時緊急地震速報が鳴り響いた。
震度4とのこと。
震度4?それにしては命の危険を感じる大きな揺れだ。
急いで隆太さんと階段を降り、外に出た。
揺れは比較的すぐに収まった。

「家が傷んで、2階の揺れが激しかったな」
「はい。驚きました」
「よししばらくは2階に入るのは最小限にしよう。俺はもう大丈夫だ。ナオはまだある?」
「僕もリュックとボストンバックだけです。2階に置いてきたので取りに行ってきます」
「気をつけてな。俺は冷蔵庫で食べれそうな食料と家族の上着を持ってくる」
僕は急いで2階に上がった。
心なしか、2階の隙間が少し広がった気もする。
昨日の大きな地震も4分後にさらに致命的な本震がきた。
急いで荷物を担いで下に降りてきた。

持ってきた荷物を車に積む。
毛布と家族のダウンジャケットなど上着も詰め込んだ。
これで寒さは少しは凌げるだろう。

最後にトイレが使えるか見てみた。
裏庭で浄化槽がせり上がった影響もあり心配したが、水さえあれば何とかトイレは流せそうだ。
ただトイレは蔵の近くにあり倒壊の影響が心配される。

「女性陣に対してうちのトイレを開放しちゃろか」
隆太さんが言った。
それがよいと僕も思った。

避難所となっている小学校のトイレは流れず早くも悲惨なことになっている。
ここでは水があれば何とかトイレは流せそうだ。
普段なにげなく浸かっている水洗トイレだが、このような状況になってみると一度にこんな大量の水を使っていたのかと本当に驚く。
水のありがたみが身にしみる。

荷物で車がいっぱいになったので一度小学校に戻ることにした。
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