第37話 1月13日。NO WOMAN NO CRY。

文字数 2,062文字

夜は体育館のステージを使って、スイートTAKUさんのミニコンサートを開催した。
福森さんが作ってくれたおつまみや、金沢から持ってきたお酒も振る舞われている。

「今晩は、スイートTAKUです。初めまして。
僕の生まれは石巻。
結婚してからは縁あって金沢に住んでいます。
今日はよろしく」
そう挨拶してから得意のギターで石巻の郷愁漂う民謡を2曲披露してくれた。

「僕の母親や地元の友人達も、2011年3月11日の東日本大震災で津波の被害を受けて避難所で過ごしたんだよね。
その時も僕は沢山の支援物資を車に積んで、金沢の友人達と避難所に行ったんだ。
津波で壊滅的な被害を受けた故郷石巻の姿を見た時、涙が止まらなかった。
そして、その時はここから復興できるイメージがまるでわかなかった。
けどご存知の通り、今では見事に復興してる。
人間の力って凄いんだよね。
だから珠洲も大丈夫。きっと大丈夫」

スイートTAKUさんはそう話した後、大好きな浅川マキさんの「それはスポットライトではない」のカバーを披露した。

それはスポットライトではない
https://www.youtube.com/watch?v=A2hVtGnRKNA&themeRefresh=1

それからはお年寄りでも楽しめる昭和のヒット曲を次々と演奏した。
軽快なトークもあり、歌の途中には手拍子もおこったりして会場となった体育館は徐々に盛り上がっていった。

「では最後に、ボブ・マリーの『NO WOMAN NO CRY』という曲で締めたいと思います。
この曲は歌詞の途中に『everything gonna be all right.』というのが繰り返されるんだけど、日本語の意味は『すべてはうまくいくさ!』という歌詞なんです。
僕からこの歌詞を珠洲の皆さんにお送りします。」

ギターのイントロが流れる。
「思い出す2人で居た日々を、この珠洲の街角で」
ボブ・マリーの名曲を日本語に訳した、TAKUさんの十八番の曲だ。

NO WOMAN NO CRY
https://www.youtube.com/watch?v=PWY5U-TWvz8

『everything gonna be all right.』を繰り返すところでは、見に来てくれた若い方たちや、一緒に来た美久ちゃんや福森さんも歌ってくれて盛り上がった。

「僕も色々あったけど、震災時石巻に与えてくれた全国や全世界から受けた『恩』は忘れていない。
その時の恩を皆さんに少しでもお返しできたら嬉しいです。
皆さんのお陰で俺も元気でたぜ!皆さんも元気で」
そう言って、最後をTAKUさんがミニコンサートを締めると、「アンコール」の手拍子が上がった。

TAKUさんは頭を掻いて少し恥ずかしそうに手を上げて応えた。
「では、最後にもう一曲。その前に一言だけ。
本日のいろいろな催しを考えてくれたナオくんに、皆さま拍手を」
突然紹介され、みんなの視線が僕に集まった。
避難所の皆さんや一緒に金沢からきたみんなも拍手してくれている。

「ナオ、せっかくだから一言挨拶しな」
TAKUさんが無茶振りをしてくる。
美久ちゃんがマイクを素早く持ってきてくれた。
いや、持ってこなくてもよいのですが。。。
マイクを手渡されると、賑やかだった体育館に一瞬静寂が訪れた。

「えっと、えっと、川井 直といいます。えっと、、、」
「えっと、はいいがや」
言葉に詰まっていると、既に結構酔っているお義父さんが茶々を入れた。
会場は笑いに包まれる。

「えっと、そうですね。僕は金沢生まれで、石川県に住みながらずっと珠洲には来たことがなかったんです。
結婚して三月家の皆さんに出会えて、毎年2週間ぐらい珠洲で過ごしています」
珠洲の方から拍手をいただいた。

「珠洲は本当に素晴らしいところで、山と海がすぐ近くにあって魚も野菜も美味しくて、人もめちゃくちゃ暖かいです。
珠洲図書館や古川パン、舟あそびさん、春日神社、野々江総合公園の湖のほとり、それにあみだ湯、のとじ荘など大好きな場所も沢山あります。
1月1日大きな地震があり今は大変な状況になってしまいました。
そんな中、僕は3日の朝に金沢に戻ってしまい心苦しい気持ちでいました」
「気にすることないげんぞ!」
町会長さんがフォローしてくれた。

「ありがとうございます。今回のようにできるだけ金沢から支援し続けたいと思っています。
僕らもできるだけ頻繁にここに戻ってきたいと思っていますので、今後ともよろしくお願いします」
そう話すと一際大きな温かい拍手の雨が降り注いだ。

やばい泣きそうだ。

「ナオくん、りっぱなスピーチありがとう。
では最後に一緒に『満月の夕』歌いましょう。ステージに上がってきて」
「ええっ!?」
TAKUさんのさらなる無茶振りだ。
「ほら、早く」
促されるままステージに向かう。
日本酒をぐっと一息で煽ってステージに立ち、TAKUさんの演奏で『満月の夕』を歌った。

会場は大いに盛り上がり『ヤサホーヤ 』のところは会場全体での大合唱となった。
その光景を見たときに再び熱いものがこみ上げてきた。
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