第7話 1月1日。避難所。

文字数 2,136文字

上戸小学校までの道のりも一筋縄には行かなかったが、何とか辿り着くことができた。
グランドには10台ほど車が停まっている。
多くの人は着の身着のまま歩いて辿り着いたようだ。
僕の車も校舎前のグランドに停めた。

車から降りたお義母さんは、近所の年老いたお婆さんと何やら険しい顔で話している。
はるき君は自分たちが通っていた勝手知ったる小学校だ。
清恵さんの傷の手当のため、はるき君は保健室から怪我の手当の道具を取りに行ってくれている。
車の中ではともき君は清恵さんに寄り添っている。
レイちゃんは子供たちを落ち着かせることで、徐々に自分も落ち着いてきたようだ。

僕はお義父さんたちを車で探しに行こうとしたが、道が悪く、辺りは急激に暗くなってきているので校舎内にお義父さんと隆太さんが来ていないか探すことにした。

スマホの時計を見ると、17時を回っている。
電気が止まっているので、光のない世界に迷い込んだようだ。
スマホが発する灯りだけが、水辺に集うホタルのように光っている。
急激に気温も下がってきた。
朝の予報では18時は4度。
日を跨ぐ頃からは氷点下の予報だ。
海風の影響かそれよりも体感温度は低く感じる。

体育館や校舎内を探したが、お義父さんたちはいないようだ。
基本避難者は体育館に集められている。
大きめの石油ストーブが一台があるが、とても大きな体育館全体を暖められるものではない。
着の身着のままの方ばかりで、毛布や上着の防寒具は全く足りていない。
明かりもなく、体育館のマットの上でみんな身を寄せている状況だ。
さらに一通り校舎内を探したが、お義父さん達を見つけることは出来なかった。

車に戻ると、レイちゃんが清恵さんの手当をしていた。
水も断水しており、先ずは消毒液で自分の手を消毒してから、清恵さんの傷口の消毒を行う。
大きな絆創膏と、きつく縛った包帯で何とか血は止まった感じだ。
清恵さんは食器棚で頭も打ったが、今のところ大丈夫そうに見える。
平時ならもちろん病院にすぐ行くべきだが、電気も水道もなく、道を照らす街灯もないこの状況で、道の亀裂や建物の倒壊が多数待ち受けるであろう珠洲の夜道を進むのは容易ではなさそうだ。
体育館内でも怪我をした人が多く、早くも保健室のストックは付きかけているとはるき君が言っていた。

「学校の中を回った感じだと、全員が体育館で過ごすのは厳しそうです」
車の中でみんなに言った。
「狭いですけど、今夜はうちの子供2人と、お義母さんと清恵さんとはるき君ともき君は車で寝ましょう。暖房が効くので。僕とレイちゃんは学校で寝ます」
「俺とともきは学校で寝るよ。レイちゃんが車で寝てよ」
はるき君が言ってくれた。
確かに体力がある中学生なら一晩なら体育館でも大丈夫かもしれない。
うちの子供たちにもレイちゃんが必要だ。
「ありがとう。ならそうしてもらうかな」
「私も学校で寝るわ。近所の人達も心配だし。もし私が車で寝るぐらいなら、もっと高齢の方を入れてあげて」
お義母さんもそう言ってくれた。
「じゃ、車中泊はレイちゃんとうちの子供2人と、清恵さんにしましょう。それなら車のスペースを広く使えるかもしれません。しんどくなった人がいたら交代で。」
「ごめんね」
清恵さんが謝った。
「いえいえ。すみませんが子供たちの面倒もレイちゃんと交代でお願いします」
食べ物は子供のおやつの食べ残しと、飲みかけの少しのお茶しかない。
車はエンジンをかけて暖房をつけたままとした。

18時を周り、辺りは完全に漆黒の世界になった。
体育館にはさらに人が集まってきており、体育館のマットもあっという間になくなっていた。
中には足を引きずりながら歩いている高齢者や、傷口を抑えながら歩いている人もいる。

普段は若い世代の人口が少ない高齢化が進んだ珠洲だが、今日は元旦だ。
僕たちをはじめ、多くの家庭では帰省した子供世帯の家族が大勢いた。
普段の珠洲の人口の1.3倍ぐらいにはなっていたのではないだろうか。
そんなときに今回の地震は起こった。
若い夫婦やその子供たちの姿も体育館には見受けられ、みんな肩を寄せて寒さをしのいでいる状況だ。

学校に置いてあった非常食は有志によって配られていた。
僕やはるきくん達も配るのを手伝う。
恐らく想定外の人数のため、非常食が無くなるのも早そうだ。
水道が使えず、下水も壊れていると思われ、早くもトイレは悲惨な事になっている。

明日1月2日は晴れるため、日中は10度近くと季節外れの暖かさの予報だが、その分朝は放射冷却現象で氷点下の冷え込みとなる。
家に帰る選択肢もあるかもしれないが、震度4以上の余震が絶え間なく連発しているこの状況で帰る人はほとんどいない。
電気もない中、家の安全性も確認できないだろう。

スマホは節電のためほとんどつけていない。
基地局が故障しえいると思われ、ほとんど通信できない状況が続いている。
外部の情報は1台の携帯ラジオと、古いスマホでワンセグが見れる人の小さな画面からしか入らない。
ワンセグで伝えられるニュースを見ると、珠洲など奥能登は壊滅的な被害があり、珠洲市では家屋の倒壊が多数、ところによっては津波の被害が甚大。
輪島市の朝市通りでは、大規模な火災も発生しているということだ。
不安に震えながら、夜は更けていく。
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