第38話 1月14日。自主避難所。

文字数 1,115文字

スマホのビデオ通話の呼出音で目が覚めた。
天井を見上げる。
そっか、ここは珠洲の三月家の母屋だ。
昨日はスイートTAKUさんのミニコンサートのあと、お義父さんやTAKUさん、町会長さんや珠洲の方たちに日本酒をしこたま飲まされてたんだっけ。
二日酔いで頭が痛い。

「はい、もしもし」
ビデオ通話にでると、「おはよう!!」と元気な聡の声が聞こえてきた。
頭に響いて、思わずスマホを遠ざける。
「おはよう。。。聡元気?」
「元気!」
しばらく聡とビデオ通話で話した。
「じゃ、お母さんに変わるね」
ビデオの画面はレイちゃんに切り替わった。
「朝早くごめんね。聡がどうしてもお父さんと話したいって言って」
「いいよ。僕も聡と話せて嬉しかったよ」
最近、はるき君やともき君にベッタリな聡だったが、僕もまだ忘れられているわけではなかっようで安心した。

「それにしても昨日のナオくんの挨拶や、歌はよかったね」
「えっ、どうしてそれを、、」
「お兄ちゃんが昨晩の動画送ってきてくれたの。みんなでさっき見てたわ」
笑いを堪えながら画面の中のレイちゃんが言った。
「そんな、、」
「今回の支援、避難所の人が凄い喜んでくれていたと、お兄ちゃんもナオ君のこと褒めていたよ。
本当によかった。」
「そうだといいんですが、、、TAKUさんの無茶振りは余計でした」
「いやいや、立派立派。今日も頑張って、無事に帰ってきてね」

そうだ。
今日はもう一つ避難所を回るんだった。
僕たちが避難していた上戸小学校は元から珠洲市の避難所に指定されていた場所で、公的な支援も素早く受けられた避難所だ。
しかし今回の大震災では公的な避難所ではない、住民たちが開いた「自主避難所」が多く設立されていた。
そういった行政が把握できていない自主避難所には、ほとんど支援が届いていないという話を隆太さんから聞いた。
隆太さんの友人のご両親がそういった自主避難所にいるのだという。
そういった情報を元に、二日目は山間にある、自主避難所に行くことを計画したのだ。

珠洲市は結構広い。
石川県の能登半島の最先端にある珠洲市は、人口約13,000人の本州で最も人口の少ない市だ。
珠洲市の面積は石川県の県庁所在地である金沢市の約半分だが、金沢市の人口は約47万人。
人口密度は金沢と比べると約二十分の一。

また珠洲市の平均年齢は60歳。
65歳以上の高齢化率は50%強、75歳以上の後期高齢化率は30%弱と全国でもトップレベルの高齢化が進んだ市となる。
辛うじて生活を営んでいた限界集落も多く、今回のような大規模災害では限界集落の支援が行き渡っていない。

僕とTAKUさん以外はもう出発の準備を進めているようだ。
僕も痛む頭でのそのそと起き上がって、出発の準備を始めた。
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