第45話 1月21日。邂逅。

文字数 1,336文字

「正直、珠洲でお父さんやお爺ちゃん達と分かれた時より辛かったです」
少し落ち着いたはるき君が車の中で話した。
泣いていたともき君も落ち着いてきたようだ。

「そうだね。僕も親になってからわかったんだけど、よく『親は子供に無償の愛情を与える』とか言うけど、本当に無償の愛情を与えているのって実は逆で、小さい時の子供が両親や関係者に与えていると思うんだよね。揺るぎない絶対的な信頼のような」
「そうかもね。この子達の小さい時の頃を思い出したわ」
清恵さんも同意してくれた。
無償の愛であるが故に、子供に対して応えられない時に大人は心を痛める。

はるき君やともき君はまだ中学生だけど、先程の経験がこれからの長い人生の中で
いい経験になってくれることを願う。

***
僕の住んでいる金沢市の大野町から、医王山スポーツセンターまでは車で約40分。
同じ金沢市内でも海沿いの大野町から、医王山の山深くにあって富山県との県境にも近い医王山スポーツセンターでは同じ金沢内でも随分距離が離れている。

雨が降る中、聡たちと暮らした思い出話に花を咲かせながら車を進めた。
金沢市の外環状線を左折し金沢大学の前を通る。
そこからはずっと山道だ。
山道を進んで行くと一見昔の学校のような、医王山スポーツセンターが見えてきた。

医王山スポーツセンターはその名の通りスポーツ設備が充実し、合宿などで利用される施設だ。
僕も小学校のスキー合宿で1度泊まったことがある。
夏でも標高が高いためか、宿泊施設にも凛とした空気が漂っていた記憶を思い出した。
完全なる山の中で、周りには何もない。

「ここかぁ」
今日から住むことになる、はるき君、ともき君は興味深そうに建屋を眺めた。
駐車場に車を停めると、後ろから大型の観光バスが到着した。

「あ!」
大型の観光バスの中からこちら車内に向かって、大きく手を降っている体操服の子供たちがいる。
運転席の上のプレートを見ると「珠洲市中学校御一行様」とある。
ちょうど珠洲から中学生達を乗せたバスも到着したようだ。

はるき君、ともき君は僕の車から降りて、観光バスから降りてくる生徒に向かって走り出した。
降りてきた生徒も口々に「はるき!」「ともき!」と2人に駆け寄った。
「元気やったか!」
抱き合ったり、握手したりと、会えた喜びを爆発させている。

元旦以来離れ離れになったクラスメイト。
はるき君達が通う1学年50人前後の中学校の生徒の中で、この医王山スポーツセンターに来た生徒は何人ぐらいだろう。
ある人は珠洲に残り、ある人は別の避難先で通学し、ある人は完全に珠洲を離れ、転校してしまった人も多いのだろう。
震災によりそれぞれの家庭の事情で突然離れ離れになってしまった。

それでもここで昨年末以来出会えた友人たちだけでも、お互いの無事を確かめて、元気な姿を見れてみんな本当に嬉しそうだ。
はるき君やともき君も僕たちといるときは不安な素振りは見せなかったが、慣れない金沢での暮らしとは別に、友達の安否がわからない不安も非常に大きかったのだろう。

何にせよ、まだ中学生だ。
いや大人だってこんな大震災ではみな不安になっている。

子供たちが邂逅を喜びあう姿を見て、清恵さんも涙を流している。
僕も家では涙を我慢していたが、今回ばかりは涙が止まらなかった。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み