第2話 1月1日。珠洲へ。

文字数 2,254文字

あけましておめでと!!
聡がベットで寝ていた僕の腹の上で飛び跳ねている。
年末ずっと仕事で寝不足だったところに加え、大晦日の実家でビールで昨晩は帰宅後22時には子供たちと一緒にぐっすり眠った。
時計を見るとまだ6時か。寝正月を決めたいところだが、子連れだとなかなかそうもいかない。
「あけましておめでとうございます」
聡に年末の挨拶をして、一緒にリビングに向かった。

リビングではカツオ出汁のいい香りが漂っていた。
幼児用のベッドでは春香はまだぐっすり寝ていた。
「あけましておめでとうございます」
少し抑えめの声で、キッチンのレイちゃんに声をかけた。
「おめでとうございます。今年もよろしくね」
レイちゃんは顔を上げて挨拶をしてくれた。
「こちらこそ、よろしくお願いします」
僕もペコっと頭を下げた。
「お雑煮、お餅何個?」
「大きいお餅?」
「小さめかな」
「じゃあ3個で」
「了解」
「ボクも3個!」
聡も真似して答える。
元気な大きな声だが、春香はまだ目を覚まさず寝ている。
「わかったわ。聡のは小さく切ってあげるね」
いつも子供がお餅をのどに詰まらせないよう、小さく切っていれてくれている。
「まだもう少しかかるから、天気もいいし公園でも散歩してきたら」
「そうだね」

着替えて聡と近くの公園まで散歩する。
今年の元旦は金沢にしては珍しくいい天気。
6時の気温も6度とこの時期の金沢としては暖かい。
年末年始もほとんど雪は降らなかったし、暖冬の予報は今のところ的中している。

公園で二人でポケモンGOのアプリを開き、今年の初ポケモンをゲットした。
しばらくポケモンを何匹かゲットしながらのんびり歩く。
元気が有り余っている聡が公園をぐるぐる駆け回っている。
少し疲れた頃に、家に帰った。

家に帰ってレイちゃんの作ってくれたお雑煮をいただく。
レイちゃんの実家の能登の珠洲市のお雑煮は岩のりをたっぷりと入れるスタイルだ。
それはこの後、珠洲に帰省したあと食べられるので、今朝は普通の金沢のシンプルなお雑煮を作ってくれた。
四角い白い餅に三つ葉がのっている。

お腹がいっぱいになってしばらく休んだころ、ポストに年賀状が投函された音が聞こえた。
年賀状は貰う枚数も、こちらから出す枚数もずいぶん少なくなったけど、一部の方とは今でも年に一度年賀状で近況を報告しあっている。
人の家の子供の成長は本当に早いと実感しながら年賀状の写真に目を通す。
じっくり読むのは珠洲から帰ってからにすることにして、珠洲行きの準備を進める。
あらかたは昨日までに準備は終わっているので、身の回りの品と最終チェック程度だ。
車のガソリンも満タン。
珠洲のガソリン価格は奥能登で輸送費がかさむためか、金沢より1リッター辺り10円ほど高い。
珠洲で給油しなくてもよいように、できるだけ金沢で給油している。

「じゃあ、珠洲に向けてしゅっぱーつ!」
助手席のチャイルドシートで聡が大きな声を上げ、僕は車を車庫から出した。
後部席ではレイちゃんがチャイルドシートの春香に飲み物を渡していた。
僕らの住んでいるのは金沢市の港町である大野町だ。
醤油の生産でも有名。
大野町から車を出して、お隣の内灘町に向かう。
内灘からは金沢と能登を結ぶ自動車専用道路である「のと里山街道」に合流し、奥能登珠洲に向かう。
僕はのと里山街道の海沿いの道が大好きだ。
左手には「外浦」と呼ばれる海岸線が続く。
石川県の左の福井側の日本海が外浦。
右側の富山湾よりが内浦と呼ばれる。
能登半島と富山に囲まれた内浦は穏やかで、外浦は荒れることも多い。
今日の外浦は波もなく、穏やかな光景だ。
外浦の途中の「千里浜なぎさドライブウェイ」は車が走れる砂浜であることで有名だ。

途中の「志雄パーキング」でトイレ休憩。
だんだん移動に飽きてきた聡が体を伸ばす。
売店でおやつや飲み物を買って、再びのと里山街道を珠洲に向かって進む。
中程の羽咋川を過ぎたあたりから、海岸線を離れ、能登を右斜め方向に横断するように山道となる。
子供たちはおやつを食べて眠っていた。
朝が早かったレイちゃんも小さく寝息を立てていた。

聡も僕も珠洲に行くのを楽しみにしている。
奥能登の人たちは本当にお客様をもてなしてくれる文化があり、結婚7年目の僕なんかでさえまだ行くと最上級のおもてなしをしてくれる。
聡もいつも珠洲では最後の一軒となったおもちゃ屋で、おもちゃを買ってくれるのを楽しみにしていた。
そのおもちゃ屋は小さいお店の中に沢山のおもちゃが山のように積まれていて、秘密基地のようなだ。
僕も懐かしのウルトラマンのソフビやガンプラなどを眺めているだけで楽しくなる。

珠洲に行けば漁師をしているレイちゃんのお父さん、お兄さんが捕れたての新鮮な魚の数々を、お母さんが腕によりをかけて振舞ってくれる魚料理がどれも美味しく、僕は行くといつも体重が増えて帰ってきてしまっている。

のと里山街道を「のと里山空港インターチェンジ」で降りて珠洲道路に合流する。
のと里山空港のパーキングで2度目のトイレ休憩と考えていたが、3人ともまだ寝ているので通過し、そのまま珠洲に向かう。
金沢から珠洲の実家まで約2時間半。
小さい子供がいると休憩が多くなり、もっと時間がかかることが多いが、元旦は道も空いているし、車内で寝ている時間が長そうなので、今日は早めに珠洲に着きそうだ。

スマホをカーステレオに接続し、僕の好きな曲を流す。
いつもは子供向けの音楽が中心になっているので、自分好きな音楽での長距離ドライブは久しぶりだ。
鼻歌混じりで快適に珠洲に向かって車を進めた。
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