第9話 1月2日。極寒の朝。

文字数 1,363文字

昨夜から何回かは、うとうとしかけたが、結局まとまって寝ることが出来なかった。
寒い。とにかく寒い。
毛布もなく、身を寄せ合って過ごしたが、体育館の床や壁からは容赦なく氷点下の冷気が襲ってくる。
体育のマットは無いよりはマシだが、冷気を抑えられるものではなかった。
避難した何人かの方は教室に移ったというが、暖房が入らない教室では寒さは変わらないとのことだった。
お義母さんやはるき君、ともき君は今は眠っている。
少しでも眠った方がよい。
夜明け前のまだ薄暗い体育館を抜けて、一人外に向かい足を進める。

天気予報通り、放射冷却現象が発生しているようで、一面霜が降りている。
エンジンをかけたままの車を覗くと、みんなも寝ているようだ。
すぐ近くの海の方に目を向けると、薄っすらと空が赤みがかかってきた。

ここより少し北にある蛸島の後ろから、だんだん朝日が昇ってきた。
元旦にこれだけ人間に強い仕打ちをした自然だが、朝日は何事もなかったかのように悠然と光り輝いていた。
寒さに震えながらその光景に目を奪われる。
赤かった朝日にだんだん黄色が混ざり、空や海面を一面黄金に染め尽くす。
真冬だが太陽の力強い光が、海面に反射し一本の光る道のように映し出される。
その光景は太陽がこの道を通って、こちらに来いと誘っているかのようだ。

美しい。
しばしその光景に心奪われていた。
太陽がさらに昇り、通常の朝日の風景となった頃、車に戻りもう一度中を覗いた。

「あっ、お父さんだ!」
聡が僕を見つけて大きな声を上げた。
その声でみんなが起きたようだ。
あまりの寒さに車のドアを開け、僕も後部座席に座った。
「おはようございます」
「ナオ君、唇青いよ?寒かったんだ。」
レイちゃんが僕の顔色を見て気遣ってくれた。
「さっきまで朝日が登るを少し見ててね。すごい綺麗だったよ。」
みんなで海の上に昇った太陽を見た。
「寒かったけどね」
少しおどけて言った。

「あー今日の日の出は綺麗だったろうな。いつもは船の上で見ているが。」
隆太さんが答えた。
疲れがとれたのか、隆太さんの顔には生気が戻っている。
お義父さんの方をみると、まだ昨日の疲れがとれていない感じだ。
「お義父さん、体調どうですか?」
「おかげで随分楽になったわ。もう大丈夫や」
「お父さん、無理せんといて!」
レイちゃんと清恵さんが同時に言って、車内に笑い声が起こった。
お義父さんがすぐ無理をするので、みんな心配しているのだろう。

「まぁ本当にもうちょっと休めば大丈夫や」
お義父さんが頭を掻いた。
「そうですね。もうしばらくは休みましょう」
「体育館はどうだった?」
レイちゃんが僕に聞いた。
「やっぱり寒かったですね。毛布や上着もないので」
「そうだよね、、、」
「お腹空いた!」
元気に聡が言った。
僕はポケットに入れておいた乾パンの缶詰を開け、一人2枚づつみんなく配った。
ウェットティッシュも後僅かだ。
水道で手を洗えないことが、こんなに不便だと生まれて初めて感じた。
気軽に手を洗えないストレスがここまで大きいとは。

「とりあえず昨晩支給のあった乾パンはこれだけです。今朝の分がないかこれから確認してきます。」
レイちゃんは子供たちに自分の分を回そうとしているが、体力を維持するためにちょっとでも食べてと促した。
少しだけど食べ物を口に含めて、車内で体も温まったので、体育館に戻った。
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