第75話 4月27日。対立。

文字数 2,440文字

今回僕たちはともき君の部屋を使わせて貰うことになった。
ともき君は今日だけお兄ちゃんの部屋で布団を並べて寝てくれるという。
部屋に荷物を置いてお茶をいただき、しばらく休んだ後、僕は三月家の皆さんに完成した間取り図面の説明を行った。
概ねは清恵さん経由で確認してもらっていたが、間取りについての最終確認だ。

一通り説明し、少しお義母さんからの質問があって答えたが、他は特に質問もなく説明は終わった。
その後のキッチンの設備など細かい話になると、興味なさそうなお義父さんと隆太さんは後は任せると言って部屋を出た。
聡と春香は、家のすぐ裏の海ではるき君とともき君と一緒に砂遊びをして貰うという。
まだ5月の前なのに日中は25度と季節を先取りしたような暑い日となった。
随分陽も長くなったので、沢山砂浜で遊べそうだ。
僕とレイちゃん、清恵さんとお義母さんとで水回りの設備や、現在の家具をどこまで使うかなどを話し合った。

※※※
「では、いただきまーす!」
「いただきまーす」
最初に聡が挨拶をして、みんなで夕ご飯をいただいた。
お義父さんや隆太さんが朝獲ってくれた豪華な海の幸が食卓を彩る。
聡の小学校の話や、はるき君達の中学校の生活の話で盛り上がった。
やはり新学期になっても珠洲に戻って来ない人も多く、生徒数は四分の一ぐらい減ったという。
子供達は先にご飯を食べ終わって、はるき君の部屋で、昔のおもちゃで遊んで貰っている。

残った大人6人で新しい家の話をしていた。
「ところでさ、ナオ。今から何だけど、2階の部屋もう少し大きくなんねーかな」
「えっ!?」
ほろ酔い気味なお義父さんの一言に、思わず僕やレイちゃんや清恵さんから声が漏れる。
「ほら、なんだ。俺の弟の親戚が沢山泊まりに来てくれたことがあるだろう。全員で11人ぐらい。」
「15年前の話やね。」
お義母さんが呆れて答えた。
「そうや。あんときみたいに11人ぐらい泊まりに来たら、どうするかと思ってな」
「その時以来、そんな大人数うちに泊まりに来ることなかったでしょ!」
レイちゃんも呆れつつキツめに答えた。
「いや、7−8人ぐらいはたまにはあった」
お義父さんはキッパリ返す。
「そんときゃ、今の間取りだと狭いやろ。聡も春香も年頃になってきたら別の部屋がいいとか言うかもしれんし」
「あのですね」
レイちゃんが言った。
やばい!
レイちゃんが「あのですね」と言うのは、かなり怒っているときだ。
僕も前に随分怖い思いをした。。。

「あのですね、うちは民宿じゃないのよ。
11人来たときもお義母さんや清恵さんがどれだけ大変な思いをしたことか!」
「けどよ、弟の嫁さん達女性陣もみんな家事を手伝ってくれたじゃねぇか。ほら楽しかっただろ」
「そりゃお父さんはお酒飲んでみんなで騒いで楽しかったでしょうけど、手伝ってくれた人も慣れない台所で私達に気を使っていて大変だったのよ。」
「そうか。けど俺の甥っ子や姪っ子も含め、小さい子どもたちはみんな楽しそうだったじゃねぇか。あん時って、もうはるき達も生まれていたっけな」
「あっ思い出した」
清恵さんが言った。
「そういえば私その時身重で大変だったんだわ。
なのに隆太、何も手伝ってくれなくて悲しかったんだ」
「ひどーい、おにいちゃん!」
「やべえ、飛び火した」
割れ関せずと枝豆をつまみながら日本酒を飲んでいた隆太さんが後ずさった。
「何にせよ、家を大きくすれば費用も上がるし、これ以上大きな家はもういらないの!」
「金ならまだあるよな、母ちゃん」
「あるわけないでしょ。最近魚の売上減っているのに」
お義母さんが冷ややかな視線をお義父さんに向けながら答えた。
「いやまたバンバン魚も獲れて売れるって。任せとけ。
なっ、ナオ頼む。お前からも言ってやってくれ」
「ええ!?僕に振られても」
「あのですね」
レイちゃんがまた言った。
「ナオくんは今後のことまで色々考えてくれて、家の大きさを考えてくれたのよ。
それにナオくんだったらお父さんやお兄ちゃんと違って、大勢のお客が来てくれたら真っ先に家事を手伝ってくれるけど、どうせお父さんやお兄ちゃんは家のことなーもせんでしょ。
今もうちは家事を半分づつ分担してるけど。
家のことを手伝わない人には、何も言う権利なし!」
「あらいいわねー。ナオさんはそんなに家のこと分担してくれるんだ。うらやましいー」
清恵さんがいやみっぽく言うと、隆太さんはさらに席を少しづつ遠ざけていった。
「ほんと、令和な感じでいいわね。うちの昭和な男どもに聞かせてやりたいわ」
お義母さんもさらに嫌味っぽく続いた。
「わかった、わかったよ。それにしても俺たちに味方してくれないなんて、ナオ冷てーな」
恨めしそうな視線を僕に向けて、お義父さんは日本酒のグラスを持って少し離れた隆太さんの方に席を移って飲み直した。
お義父さんの要望は、三月家の女性陣の圧勝で却下された。

食後キッチンテーブルで、女性三人揃って楽しそうにデザートを食べているところへ顔を出した。
「お義母さんすみません、あまり予算のことは話していなかったのですが、もう少し減らすよう検討しましょうか」
先ほどお金の話になったので、僕は予算縮小案を幾つか考えていた。
「大丈夫や。予算は今のままでえーよ」
「でもさっき。。。」
「あーあれは嘘。昔豊漁続きでえらく儲かってきたときの蓄えがまだ結構あるのよ」
お義母さんがサラッと言った。
「えっ?」
「これからうちの子供達に学費がかかるのと、どうせまた船が壊れたとか、船を新しくしたいって突然言ってくるに決まっている。
男どもには貯金の額は少なめ伝えてあるのよ」
清恵さんがいたずらっぽく答えた。
「そうなんですね」
「隆太やおじいちゃんには絶対言ったら駄目よ」
女性陣3名は揃って控えめな笑い声をあげた。

そういえば僕も家の毎月の貯金はレイちゃん任せだ。
金額は聞いているが、もしかして。。。
僕は浪費する方ではないので同じようなことにはならないと思うが、お金のことはレイちゃんにすべて任せておこうと今日で身にしみてわかった。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み