第59話 2月24日。試行錯誤。

文字数 1,189文字

珠洲市宝立(ほうりゅう)町鵜飼(うかい)で見た、一面壊滅的な光景は衝撃だった。
金沢に帰ってきて所長たちともそのことについて話し合ったが、もう僕たちで支援できるレベルではないとの結論に至った。
大きな重機や解体のノウハウが必要となる。
他の避難所に対しても段々支援できることが少なくなり、今後どう支援活動を進めていくか迷う状況になってきた。

今週は所長チームが珠洲支援に向かっている。
所長は支援チームのメンバーをガラッと変えて、今回は僕たち町家の設計事務所と普段取引のある外壁や内壁工事、電気や水回りなどの専門家の施工業者を中心としたメンバーを編成した。

避難者の壊れた自宅を訪れ、簡単な損壊はその場で直したり、手の掛かりそう修繕は見積もりを発行しているという。
家を修理できる能登の地元業者の数は、膨大な需要に対して、明らかに足りていない。
道路や水道などインフラを工事できる業者は、優先順位が高い主要インフラの復旧作業に携わっている。
家や設備に関する業者も、仮設住宅の建設や学校の復旧工事でてんてこ舞いだ。
猫の手も借りたいぐらいの状況で、少しでも関連する業者のリソースはそれらの事業にすべて吸い上げられている。
また上下水道の復旧が遅れている被災地の状況下では、地元以外の業者が被災地に長期間留まれないことが最大のボトルネックになっている。
僕たち金沢の業者が関わることができれば、自宅を直したいという地元住民の要求に少しでも応えられないかと所長達は行動している。

また珠洲市では「罹災証明書」の運用が回り始めた。
以前家の前や車庫に貼られていた「応急危険度判定」は、調査員が家屋の外側から見て、崩壊などの危険がないかを調査した簡易的な判定だ。
罹災証明はもう一歩踏み込んだ対応で、罹災証明書に先立ち珠洲の全家屋の調査が行われている最中だ。
実際に調査員が家の敷地内まで入り、家屋の被害状況を詳細に調査した結果によって「全壊、大規模半壊、中規模半壊. 半壊, 準半壊, 一部損壊」が判定される。

調査が終わった家屋は「調査済証」が家のポストに投函されているので、その用紙を持って珠洲市役所に行けば罹災証明書が発行される。
今回は「半壊」以上が「公費解体」の対象となることが決められた。

所長達は申請の手続きに不安があるお年寄りなどに付き添って、珠洲市役所に訪問を行っているという連絡もあった。
被災地の変わりゆくニーズにフォーカスして、当面の珠洲への支援を継続していけばよいというのが所長の考えだ。

単なる一過性のボランティアとしての支援だけではなく、最終的には自分たちの仕事にも結びつけられる支援を続けていけば、結果息の長い活動になるのではと所長は話していた。
そのための試金石として、今回から珠洲支援の方向性を変えて活動している。
試行錯誤しながら、長期的な復興に向けたビジョンを僕たちなりに描こうとしていた。
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