第21話 1月3日。液状化。

文字数 984文字

僕たちの住む金沢市の大野町は、海沿いの小さな町だ。
のと里山海道の起点となる内灘町から、金沢港に向かってすぐの所にある。

家が近づいてきた高揚感の中、のと里山海道の内灘インターチェンジを降りた。
「なんだ!?」
思わず声が出た。

見慣れた内灘町の風景が一瞬歪んで見える。
電信柱は傾き、家も道路も波打っている箇所が見受けられた。
「内灘町は液状化現象が起きているって避難所で誰か言っとったわ」
清恵さんが教えてくれた。
「ニュースでは珠洲、輪島を中心に報道しとるけど、石川県や氷見市でところどころ液状化しとる場所があるって」
「うちは大丈夫かな」
レイちゃんがこの光景を見て心配そうに言った。
奥能登と違い全壊している家は見当たらないが、建物が地面から傾いてしまっている光景が散見される。

「とにかくもうすぐで着きます。先ずは小児科医院に急ぎましょう」
「うん」
腕に抱えた春香を見ながらレイちゃんが頷いた。

事前に連絡していたかかりつけの小児科医院でレイちゃんと春香と聡を降ろす。
「終わったらすぐに迎えに行くから連絡して」
「わかった」
レイちゃんは急いで医院に入った。

残った僕たちで大野町の自宅に向かった。
車のガソリンのエンプティを示すランプが点滅している。
隆太さんがガソリンを補充してくれなかったら、途中でガソリン切れとなっていたかもしれない。

細い路地の続く大野の町を焦る気持ちを抑えて車を進める。
幸い大野町では液状化の影響はなさそうだ。
「あれ?」
町家を改修した自宅の電気が点いている。
家の駐車場には僕の実家の車が停めてあった。

近所の空き地に車を停めて玄関を開けると、父と母が出迎えてくれた。
「皆さん大変やったね。無事でよかった。」
「合鍵で入らせてもらったわ」
そういえばなにかの時にと、合鍵を実家に渡していたのだ。
今まで一度も使われたことはなかったので、渡したことをすっかり忘れていた。
「お世話になります」
清恵さんが頭を下げた。

「春香ちゃん大丈夫か」
父が心配そうに聞いてきた。
「今レイちゃんとかかりつけのお医者さんに診てもらっている。多分大丈夫だと思うよ」
父と母の顔を見た安堵感で涙が出そうになるのを堪えながら答えた。

「先ずは車から荷物を降ろしましょう」
車の後ろのドアを開けて荷物をみんなで降ろした。
荷物を降ろし終わったタイミングでレイちゃんから連絡があり、僕はそのまま3人を迎えに医者に向かった。
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