第4話 1月1日。16時06分。前震。

文字数 1,610文字

「ヴゥー!ヴゥー!ヴゥー! 緊急地震速報 およそ10秒後に震度6程度の地震がきます 緊急地震速報」
!?
酔いつぶれていつの間にか茶の間で寝てしまっていた僕だが、一斉になりだしたみんなのスマホやテレビから流れる緊急地震速報で飛び起きた。
子供たちは!?
聡も春香も横の部屋ではるき君、ともき君と一緒にいる。
横にはレイちゃんたちもいる。

そう確認した次の瞬間に大きな揺れが襲った。
天井の照明が大きく揺れた。
「火を消せ!」
隆太さんが叫ぶと、清美さんがコンロの火を止めた。
家の太い柱が大きく揺れた。
「キャー!」
女性陣の誰かが悲鳴を上げた。
レイちゃんが聡と春香に覆いかぶさったのが揺れのさなかで見えた。
台所から何かが落ちて、ガラスの割れる音がした。
僕も子供たちのところに行こうとしたが揺れで立てない。
這って子供たちに向かう。

「大丈夫だ!5月の地震より小さい。慌てるな。大丈夫だ!!」
お義父さんが叫ぶ。
2023年5月5日に珠洲を最大震度6強の地震が襲っている。

僕は這って子供のところに辿り着き、僕が聡を、レイちゃんが春香に覆いかぶさった。
はるき君達やお母さんたちは台所のテーブルの下に潜っていた。
命の危険を感じる大きな揺れだ。
心臓の鼓動が高まる。

今までの僕の人生で間違いなく一番大きな地震だ。
元々金沢は地震が少なく、輪島市で震度6強を記録した2007年の能登半島地震の際に、金沢で震度3となったのが僕にとっての一番大きい地震だった。
その時珠洲は震度5強だったとレイちゃんからは聞いている。

僕の下で聡が震えているのがわかる。
僕も震えていた。
自分の命だけではなく、まだ小さい子供の命が危険にさられている。

揺れはもう1分ほど続いているのか。
それともまだ30秒ほどしか経っていないのか。
時間の感覚がわからない。

次第に揺れは収まってきた。
食器棚からは食器がぶつかり合う音が聞こえていたが、そちらもだんだん聞こえなくなった。

「ふー焦ったなぁ。去年の地震のあと、家の耐震工事もしたし、大丈夫だみんな」
隆太さんが力強い声でみんなに言った。
「この揺れだと津波も心配ない」
漁師である、お義父さんが断言した。
みんなで海の方を目を向けた。
大きな海側の窓からは海が見渡せる。
引き潮や津波などパッと見た感じでは大丈夫そうだった。

「念のため2階の部屋で海を見てくる」
お義父さんは2階に向おうとした。
「いや、親父俺が見てくる」
隆太さんがお義父さんを遮って、2階に上がっていった。
「あなた気をつけて」
清美さんが心配そうに声をかける。

レイちゃんの電話がなった。
会社からの安否確認のようだ。
「こっちは大丈夫。ちょっとバタバタしているので後でかけ直すね」
手短に答えてすぐに電話を切った。
僕も金沢に住む両親に大丈夫な旨、ショートメールで送った。

「海は大丈夫だ。変わりない!」
2階から大声で隆太さんが教えてくれた。
少し安心した。

テレビの強張った顔のアナウンサーは、珠洲市は最大震度5強。
津波が来るはわからないので、海には近づかないでとアナウンサーが繰り返し伝えていた。
裏庭の扉を開けると、5歩で砂浜にある小さい防波堤と接っしている三月家。
砂浜も猫のひたいほどで、家のすぐ裏が海である。
夏などは水着に着替えてすぐに海で遊ぶことができた。

僕は震えを抑え立ち上がり、「大丈夫だよ」と声をかけながら、聡と春香の頭を撫でた。
聡は一斉に鳴り始めた緊急地震速報やその後の揺れが怖かったのか、まだ震えながら泣いている。
2歳の春香はまだ状況がよくわかっておらずキョトンとしている。
レイちゃんはいつものように落ち着いてはいるが、顔色が青く恐怖の色が残っていた。

はるき君、ともき君も机の下から顔を出した。
まだ中学生だが、最近地震が多発する珠洲で生活しているだけあってまだ僕よりは落ち着いていて頼もしい。
「台所でコップが割れたので、しばらく台所にこないでね」
清美さんがコップの後片付けを始めた。

その時だった。
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