第43話 1月20日。紡ぐ。

文字数 1,192文字

天馬さんの集落に向かうため、先週と同じく通行止めの案内の前で車を停めて、みんなで荷物を担いで天馬さんたちが住む集落に向かった。
「あら、あんたら本当に来てくれたんかいね。ありがとね」
天馬さんの玄関の扉を開けると、おばあちゃんが出迎えてくれた。

「あんたらが持ってきてくれたコンロ大活躍しとるわ。」
「よかった。替えのガスも沢山持ってきたし、また使って」
料理人の福森さんがリュックから替えのガスを台所の机の上に並べた。

温かいお茶を頂いてからみんなで運んできた「パイプ」を担いで山に入る。
天馬さんの家から山を5分ほど登った辺りに、湧き水があり毎日ポリタンクに水を汲んでいるという話を先週聞いていて、湧き水を集落まで引っ張れないかと考えたのだ。
飲水としては使えないかもしれないが、水が簡単に使えるようになれば生活の質は大幅に改善する。

みんなで山を昇り、上流から少しづつパイプを繫ぐ。
時折繋ぎ目から水が漏れるのを補修する。
パイプを通すために、シャベルで斜面を掘ったり、邪魔な木々を切ったりと悪戦苦闘すること約6時間。
夕方から雨の予報だったが、何とか雨が降る前に湧き水を天馬さんの庭先まで通すことができた。
水の勢いはチョロチョロ流れる程度だが、これでポリタンクに水を簡単に貯めることはできそうだ。
「ありがたや。本当にありがとね」
天馬さんの家に避難されている6名の皆さんから大きく感謝された。

客間を借りた柳さんのマッサージは、天馬さん達6名だけではなく、普段から運動不足気味だった僕たち金沢支援組にも行われた。
慣れない肉体労働で疲れた体が軽くなる。
「俺も、俺にマッサージしてもらいたいよ」
笑いながら柳さんが言った。
僕は普段からマッサージを受けたことがなかったが、身も心も軽くなるマッサージの力に驚かされた。
設計士で座り仕事が多いので、今後は定期的にマッサージを受けてみようと思う。

その後は福森さんの料理が振る舞われたり、大花君の簡易美容室。
森野さんの屋根や瓦の修繕など、今回も前日と同じサービスを天馬さん達にも提供した。

最後に僕から天満さんに、金沢から持ってきた菊姫の一升瓶を3本プレゼントした。
「あんがとな。先週の720ミリのお酒はみんなでチビチビと楽しませてもろたわ。」
日本酒好きの男性が多い奥能登では日本酒が喜ばれる。

今回の震災で珠洲の銘酒「宗玄酒造」をはじめ、多くの能登の酒蔵が倒壊してしまった。
能登には16もの小さな酒蔵が酒を作り続けている。
冬の農閑期の間、大きな産業がない能登は日本の四大杜氏の一つに数えられる「能登杜氏」を生み出すなど酒造りが盛んな地域だ。
今回の震災で廃業を検討する蔵元もある中、石川県の加賀の蔵元の力を借りて酒造りを継続する動きもある。
勿論この珠洲での復興を目指す蔵元も出てきている。
いつかは美味しい能登のお酒を酌み交わしましょう、と天馬さん達に挨拶して珠洲を後にした。
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