第54話 2月3日。交代。

文字数 1,310文字

毎週僕が行っていた珠洲への支援を、今後は交代制にすることにした。
今週は僕が、来週は所長というように隔週でリーダーを交代し、その時に支援できる人をアサインして珠洲に行くことになった。
マッサージ師の柳さんも1月の間は皆勤賞で毎週一緒に行ってくれたが、本業もあり、今後は行ける時に、行ける人が支援に向かおうと方針を決めた。
今週は僕と美久ちゃん、美容師の大花君、そして今回初めて参加となるカウンセラーの智子さん。
精神的なダメージを受けている人や、色々悩みを抱えている人も多い被災地でカウンセリングを行ってもらう予定だ。
今後も長く支援を続けて行くために、支援する僕たちも無理のない体制にシフトしていこうと話し合った。

珠洲に到着し、今回は避難所に行く前に、珠洲市役所横にある「春日神社」に寄った。
僕達家族も毎年正月の初詣に参拝する、珠洲で一番大きな神社。
夏の珠洲の一大イベント、「飯田燈籠山祭り(いいだとろやままつり)」も春日神社の祭礼だ。
田舎の祭りの多くが参加者不足で週末開催にシフトする昨今、頑なに7月20日、21日の固定日開催を守り続けるなど、珠洲の人はこの祭りに大きな情熱を注いでいる。
そんな珠洲の象徴の神社だが、2022年6月の震度6弱の地震で、大鳥居が倒壊した。
大鳥居を含む神社全体の修繕費は2千万円となり、氏子からの寄付やクラウドファンディングで2023年7月に再建したばかりだが、再び今回2024年1月1日の地震で大鳥居は倒壊してしまった。
珠洲神社の階段を登り、僕たちは賽銭箱にお賽銭を入れ、鈴をならして能登のいち早い復興と今後の安寧を願った。
そして三度この春日神社が再建されることを祈り、春日神社を後にした。

避難所に行くと美久ちゃんの周りに何名かの女性が集まって、花の話を始めている。
美久ちゃんは粟津温泉の谷川さんの訪問で、ネットさえあればずっと引き籠もっていても大丈夫と話していたが、自然と美久ちゃんの周りに人が集まって、場を明るくする力があるようだ。

智子さんは簡易のカウンセラー所を開設し、町長さんが事前に確認してくれた人たちのカウンセリングを始めている。
皆さん先行きが見えない状況で暮らしており、なかなか周りの同じ避難者には吐露できない感情も抱えている。
そんな不安を少しでも解消できたらよいなと思った。

美容師の大花君も前回と同じく理科室で簡易美容室を開店した。
こちらも町長に事前に募った希望者の髪を順々に散髪してる。

僕は前回谷川さんに行った、スマホのテレビ通話の設定を、希望者に行った。
清恵さんからは「あれからお義父さん、しょっちゅう谷川さんとテレビ通話してるの。
付き合いたての恋人じゃあるまいし、よくそんなに話すことあるなって呆れるわ」と聞いていた。
単なる電話ではなく、顔を見えることによる安心感もあるようだ。
何人かのお年寄りにテレビ通話の設定を行うと、さっそく遠く離れた親族や、2次避難所に避難している近所の方に連絡をとって喜ばれた。

夜は三月家に泊まり、翌日は山間の小さな自主避難所を2箇所回って金沢に帰った。
家に帰るとどっと疲れがでる。
やはり支援を交代制とするのが、現実的にもよいと感じた2日間だった。
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