第55話 2月10日。集合。

文字数 1,540文字

今週は所長チームが珠洲に支援に行く順番で、僕は金沢で過ごすことになっている。

今日はいつもとは逆に珠洲から三月家の、お義父さん、お義母さん、隆太さん、清恵さんが金沢に来るのだ。
僕は午前中に医王山スポーツセンターに行き、はるき君、ともき君を迎えに行った。
二人を車に乗せて家に帰ると聡、春香は久々に会うお兄ちゃん達に大喜び。
さっそく公園で遊んでもらっている。

隆太さんが運転する軽自動車は、15時頃金沢の僕の家に到着した。
途中事故車が車線を塞いでいて少し渋滞したというが道中は5時間ほど。
金沢に着いてから2次避難している親戚宅にも寄ったとのことで、お義父さんはお昼ご飯でお酒もいただき、既にほろ酔いだ。

「おっ、お前ら背が伸びたんじゃないか?」
僕の家の玄関で隆太さんが開口一番、二人の息子を見てそういった。
そう言われて二人を見ると背も少し伸びて、肩幅も細身の子供の体型から、ガッチリしてきた感がある。
お兄ちゃんの中2のはるき君の身長はもう隆太さんに並びそうだ。

1月8日珠洲で分かれて以来、約1ヶ月ぶりに三月家に住む6人がようやく揃った。
夜はレイちゃんと僕が作った手料理で、細やかながら家族再会を祝い料理を振るまった。
お義父さんと隆太さんが今朝珠洲で獲ってきてくれたばかりの大きな寒ブリを、隆太さんが捌いてくれて豪華な食卓となった。

はるき君とともき君は医王山スポーツセンターでの日々の暮らしのこと。
清恵さんからは、珠洲に留まっているはるきくん達の同級生など学校関連の近況。
隆太さんやお義父さんからは港や漁の状況のこと。
お義母さんからは支援を続けている避難所の話題。
それらをみんなで楽しそうに語り合った。

はるきくん達の医王山スポーツセンターの暮らしは毎日が遠足みたいで楽しそうだ
珠洲に留まっている同級生たちも少し前まではオンラインで授業を受けていたが、学校も再開し、少しづつ以前の生活に戻った部分もあるようだ。
「ただなぁ、やっぱり水が自由に使えないのは本当に不便や。清恵には聞いとったけど、金沢はほぼ無傷なんやな」
隆太さんがため息混じりに言った。
「そうですね。金沢でも山側で土砂崩れなどありましたが、ほとんどの一般家庭では地震のあとも影響なく暮らせています」
「隣の内灘の方が酷いんだって?」
「液状化している地域は家こそ崩壊していませんが、珠洲と同じぐらいに大変な状況になっています。上下水道も不通のままです。」
「液状化って恐ろしいんやな」
「本当に」
地面ごと道路が陥没や隆起したり、家が沈んだりと、珠洲の地震の被害とは明らかに状況が異なる。
液状化の被害は内灘だけにとどまらず、加賀市や富山県や新潟県と広範囲に渡っている。

「レイ、おかわり!」
「ちょっと、お父さん、ペース早すぎじゃない?」
「まぁいいじゃねぇか、せっかくみんな揃ってめでたいんだし。」
「もー」
となんだかんだ言いながら、レイちゃんは冷蔵庫から冷酒を一本持ってきてくれた。

楽しい話から悲しい話まで、ここ1ヶ月以上の期間にそれぞれあった出来事を語り合った。
誰の人生においてもこれ以上はない、激動の1ヶ月。
家族も離れ離れになった。
話しても話しても、話題は尽きない。

20時頃、聡と春香は一足先にお風呂に入ってみんなにお休みの挨拶をしてレイちゃんと一緒に布団に入った。
21時半頃お義母さんの運転で、お義父さんとお義母さんと隆太さんは僕の両親が住むの実家に向かった。
僕の家には6人が泊まれるスペースや客布団がないので、3人は僕の実家に泊まる算段となっている。
また明日戻ってくるまでしばしのお別れだ。
三月家の6名が一緒の家で、ゆっくり眠ることができるのはいつのことだろうか。
そんなことを思いながら、お酒の影響もあってか僕はあっという間に眠りについた。
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