第18話 1月3日。輪島、門前。

文字数 1,539文字

三月家の3人と別れ、珠洲道路を先ずは能登空港に向かって車を進める。
予想通り珠洲道路も道の隆起や、断裂が至るところにあり、スピードを上げては進めない。
時折道路の陥没等で片側通行となっている。
トラップが至るところにあるような状況で、慎重に運転しないと車のタイヤがパンクしてしまう。

現に道の途中には震災で動けなくなった車や、恐らく震災後の運転でパンクしてしまい乗り捨てられた車を見かけた。
当然ながら途中のファミリーマートやドラッグストアはすべて営業していない。
山間の集落では古いお家や神社が倒壊しており、珠洲市街以外も酷い状況であることが目の当たりにさせられた。

ニュースの報道では珠洲市街や、大規模火災が発生した輪島の朝市通りの様子がよく流れていたがそれ以外の奥能登も相当な被害がでているのは間違いない。
車では燃料の節約も兼ねて車内ではテレビではなくラジオを流しているが、七尾以北の奥能登はどこも壊滅的な状況のようだ。

三月家の残った3人との別れから、ずっと泣いていたみんなも徐々に気持ちが落ち着いてきたらしい。
周りの壮絶な風景に目を奪われながら車を走らせていくと、普段の倍ぐらいの時間を経てのと里山空港のサービスエリア付近まで辿り着いた。
車内ではみんな空腹だが、トイレに気軽に行けないので聡以外は飲み食べしていない。
春香の様子も熱は下がってはいないが、上がってもいない状態だ。
時々ぐずって泣いているが、体が病原菌と戦って疲れているのかほとんど眠っている。

今のところ大きな渋滞もなく進めている。
完全に通れない箇所はなく、金沢に向かって車を走らせた。
しばらくすると、珠洲道路とのと里山海道の合流地点に辿り着いた。
わずかに期待したが、やはりガソリンスタンドは休業していた。
この時点で車のガソリンは半分弱。
能登でも金沢寄りの「羽咋市(はくいし)」まで行けば、ほぼ通常の生活と避難所で聞いている。
そこまでガソリンが持ってくれることを祈るばかり。
通常は珠洲道路を左折してのと里山海道に向かうが、そこには京都県警のジャケットをきた警察官が立っていた。
いち早く京都から応援に来てくれたのだろう。

車を停めて、警察官に金沢に行けるかを聞いてみた。
「のと里山海道は今は一般車両は通れません。この道をまっすぐ行った穴水方面も通行止めです。右折して輪島市、門前経由でなら道は悪いですが金沢に向かって進めます。」
もう何度も繰り返して説明しているであろう、若い京都県警の警察官は説明してくれた。
「了解しました。ありがとうございます」
お礼を言っていつもは通ったことのない右側の道に車を進めた。
能登の外浦に近い山道を進む。

道中、今の京都県警だけではなく全国の自衛隊や警察官の車両とすれ違った。
多くの人たちが奥能登を救いに来てくれていると実感した。
「本当にありがたいね」
「嬉しいね」
車内ですれ違う多くの車両に感謝した。

道路が輪島市の市街に近づくに連れてどんどん悪くなっていく。
道路の亀裂は当たり前、地面の隆起により車体の底にぶつけるような箇所も多い。
ところどころに鉄板が引いてあり、超応急処置が取られている箇所もあった。

車のスピードは一気に下がり、慎重に運転する。
門前町に近づくとさらに道路状況は悪化した。
片道通行も多くなり、渋滞も多発している。

基本は奥能登に向かう自衛隊などの緊急車両が優先だ。
僕たちのように奥能登から金沢に戻る方面の車両は待つ時間が多い。
無論多くの方が生死に関わる緊急の救助を求めている状況のため、奥能登優先は理解できる。
が、自分の子供が高熱を出して苦しんでいる状況となかなか折り合いがつかない。
焦っていてもこの状況下では仕方がないとわかっているが、なかなか進まない渋滞の中で焦ってしまう自分がいた。
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