第13話 行きたくないって、言ったのに。
文字数 1,948文字
ムネを…触られている。
もういまさら感があるが、犯人はヤツである。
アルケー湖の底深く。
ズーミちゃんの部屋よりさらに下に眠る神殺しの剣。
それを目の前にしている。
しらじらしい色ボケがいう通り、確かに狭い。
ズーミちゃんを挟んで私とタチの三人、一つの水玉に包まれ移動してきた。
土の化身を倒した借りがあるだろう?
そう、タチがズーミちゃんに強引に迫り連れてこさせたのだ。
かわいそうに…追い詰められてプルプルしていた。
どうやら、ズーミちゃんは感情が大きく動くとプルプルするみたい。
水底で横たわる剥き身の剣…柄も黒いが、その長い刃は真っ黒だ。
にぎやかで色とりどりの湖の中、お魚さんが近寄ることもなく、石ころ一つ剣の周りにはない。
砂、砂、砂、剣の周り十メートルほどはただ砂だけ。
しかも剣の近くは砂まで黒ずんでいる。
![](https://img-novel.daysneo.com/talk/1463f7a83943c71d264beb83e5ca666b.jpg)
ズーミちゃんは言いながら少し震えている。
わかる。見ているだけで悪寒が走る。
怒り、憎しみ、恨み…負の感情が伝わるのだ…。
私への
吐き出しそうだ。
ごぽごぽごぽ。
ズーミちゃんの心配をよそに、剣の方へと泳いでいくタチ。
いくら体が頑丈だからと言って、危険な行動だ。
神殺しの剣を手に取ろうと手を伸ばしたタチ。
その手が黒く染まっていく。
ズーミちゃんが叫んだ。
意思ある存在の強い思い、それは意志ある者に影響を与える。
心のこもった歌を聞いて涙してしまうように。
憎しみや恨みだって、伝播する。
水玉の中に私を残し、助けに寄ろうとしたズーミちゃん。
その体が剣の方に近づこうとするも、見えない壁にぶつかって跳ね返される。
彼女は水の化身。神の眷属。
剣にとっては、憎き神の仲間。
私だって助けに向かいたいけど、例え水圧に耐える体をしていても、たぶん近寄れない。
だってあの剣の恨みの張本人だから…。
あとちょっと、もうちょっとだから頑張って…!
近寄れば近寄るほど空気の泡の間からタチの顔がはっきり見えてくる。
少なくとも苦しそうではない…。
ドパ!
水の玉にただいましてきたタチ。
大量に吐き出した空気を補充するため、荒く大きく息を吸う。
きらきら輝かせた瞳で言う事かな?
黒く変色していた右手は普段の色にもどっている。
グリグリとズーミちゃんの頭をなでるタチ。
玩具を見つけた子供みたいに、テンションが高い。
拳を握り、やる気まんまんのタチさん。
何か、凄い闘志に満ち溢れてる。
また感情の動きとともに、体がぷるぷる震えてる。
ザプン!
荒波に立ち向かう漁師ような言葉を置いて、再び剣へと向かうタチ。
だめだ、完全に入り込んでいる。あの向こう見ず。
水中で地団駄を踏むスライム。呆れかえる私。
残された人ならざる二人の娘は、獲物を見つけ楽しそうにはしゃぐ父だか母だかを、ただ見送る事しかできなかった。