第23話 タコの日。

文字数 2,772文字

 北へと向かう船を待つ間。

 相変わらず私たちはピチョンの港を満喫していた。

 

 やらなきゃならない事を差し置いて…。

本当にすまぬ…何もできずに…。

 今日が最終日の宿屋の一室。

 頭にタコのお面をかぶった、ズーミちゃんが申し訳なさそうに頭を下げる。

ズーミちゃんがあやまることなんてなんにもないよ!剣は奪えなかったけど、イトラより私を信じてくれたじゃない。

 同じくタコのお面をかぶった私は、ズーミちゃんに[タコタコ焼き]を一つ差し出す。


 パン生地の中に大きなタコが一粒入った、一口サイズの焼きパンだ。

 昨日今日とピチョンは海祭り。

 ズーミちゃんの家、アルケー湖みたいに色んな出店が広がっている。


 私も楽しんでるけど、特にズーミちゃんはお祭りが大好きみたい。

 ここ二日、子供みたいにはしゃいで楽しんでいる。 


 タチは…年中一人お祭り状態だから。

わらわの地にいる間に、どうにかなればよかったのじゃが…。
光の化身の命に背き、その上なお私の事を心配してくれてる優しいスライムの友達。
でも、とっても楽しかったよ。

 二人と出会ってから今日までを思い出す。

 ろくでもない記憶も沢山あるけど、ここ数日の楽しい毎日が補正をかける。

 それもまた、よかったと。

楽しかったのじゃ…けど、神様はそれでよろしいのかの?
ん~。いいんじゃないかな?

 ズーミちゃんが神様にとっても敬意を抱いてくれてるのはわかる。

 けど、申し訳ないが今の私は一応人間。たいしたもんじゃない。

なにがどうなってるのか、今の私じゃ全然わからないし…楽しければ良いってことで!
良いのかの?
例えばね。ズーミちゃんのそれ、意識して動かしてる?
 ズーミちゃんのお腹の中にある小さな気泡を指さす私。
してないの…勝手に動いとるが…。
私の体もそう。うごけーって思ってないのに、心臓は寝ても覚めても脈打ってくれてるし、息しよう!って意識しなくても呼吸してるし…。
うむ?
自分の体一つとっても統制できてないし、制御してる感はないもん、今の私じゃ無理無理。
 狭く短い世界。

 それこそを望んで人になったのだけど、全体を把握し理解しようと思うと限界がある。

だから、聖地に戻るまでは楽しむ事にしたの。最後の人生として。

 剣を奪おうとして失敗し、落ち込む。

 イトラの行動に疑問を持ち、不安になる。


 そんな時間の使い方はもったいないと思ったのだ。

 ズーミちゃんやタチと過ごす楽しい毎日を味わうべきだと。

…わかったのじゃ。

 小さく笑顔をみせ、ズーミちゃんが右手を差し出す。

 その手のひらには綺麗な水色の宝石みたいなものが、ちょこんと置いてある。

これは?
わらわからの贈り物じゃ。無事聖地まで、楽しく過ごせるようにの。

 キラキラと、ズーミちゃんの体と同じ色にきらめく宝石だ。

 人差し指と親指でつまんでロウソクの光に見透かす。


 深みと(とら)えようのない青が、私の視線を飲み込む。

 懐かしいような、不思議な感覚。

綺麗…ありがとう。

 神と化身。二人の微妙な関係は、今や友と呼べる関係になっていた。

 一緒に寝て、一緒に食べて、たくさん話すことによって。


 少なくとも私は、そう思っている。

 私の大切な大親友。ズーミちゃん。

おーい。あけてくれ。

ドンドン

 部屋の扉を叩く、太い音がした。

 声の主はタチ。どうやら軽く体当たり?しているようだ。


 他人がいるとまずいので、ズーミちゃんはベッドの脇に身を隠し、私が扉を開く。

早かったね…ってなにそれ?

 扉の向こうには、真っ赤なタコのぬいぐるみ。

 しかもタチが見えないほど大きい。


喧嘩小屋で勝った商品だ。いい運動になった。
(また物騒な所に…。)

 私の横を抜け、ぬいぐるみをベッドに放り投げるタチ。

 

むぎゅ。

なにするんじゃ!
 投げられたタコぬいぐるみは、ベッドでひと跳ねし、潜んでいたズーミちゃんを押しつぶした。
それはお前にだ。今日でお別れだからな。
むぅ…わらわにか…?
 こんなもの…と続けて言うが、喜んでいるのは表情と体内のコポコポでわかる。
元は敵だったがな、この旅で友となった。受け取れ。
 タチが親指を立て、ズーミちゃんにウインクをする。

 気の良い奴だ。変態だけど。

あぁ~!私もなにか用意しとけばよかった…!タコ!タコもう一粒だべる?
いらんいらん!…一緒に過ごした日々が贈り物じゃ。

 恥ずかしそうに、貰ったタコぬいぐるみを抱きしめ顔を埋めるズーミちゃん。

 小さい体でそれは反則だよ…!友よ!


ズーミちゃん!
 よしよしと、別れを惜しみつつ、愛しい友の頭を撫でる。

 ついでにタコの頭も。

やめい!というかタチ!お主その格好で戦ったのか?
ん?

 二本の剣を壁に立てかけ、ブーツを脱ぐタチ。

 その頭には、私たちとおそろいのタコお面。

友情の証として、かぶって戦ったぞ?呼び名はタコ女だ。下着もあのえっちな奴でな!

 朝から夕まで三人一緒に祭りを練り歩き、お面はその時ノリで買ったのだ。

 日が落ちる頃には「体を動かしたい」と、いつも通りタチは単独行動していた。


かぶって戦ったの?

 私はズーミちゃんの横に座り、二人仲良くお面を被り顔を隠す。


当然だ。友情を見せびらかしてきたぞ、変態的な強さのタコ女とみな驚いていた。
ジャラリ。

 お金が沢山入った音のする革袋が机に置かれた。

友情じゃなく、変態アピールにしかなっとらんだろう…。
 タコぬいぐるみの口をツンツン突くズーミちゃん。
良かったね。可愛いの貰って。…でもそうか、三人でいるの今日が最後なんだね。

 もう一度ぎゅっと、タコを抱くズーミちゃんを抱きしめる。

 改めて実感してしまった。今日が三人でいる最後の夜。

やめい!やめい!泣いてしまう…!

 ぷるぷるふるえるズーミちゃん。

 お面の奥には、今にも泣きそうな顔が見え隠れしている。

 そんな顔みせられたら、私まで貰いそうになっちゃう。

よし!最後は友として裸で寝るか!なっ!!

 いつの間にやら全裸で仁王立ちのタチ。

 いつも通り隠すつもりが無い…というより、引き締まった体を見せびらかしてくる。

しません!今日は私と隣で寝よ!おそろいのタコお面かぶってさ!
それもそれで間抜けじゃろう。
 同意を求める私に、タコぬいぐるみの足でポコリと一撃入れてくるズーミちゃん。
わかった。全裸でタコをかぶろう。より友情が深まる…!
深まらない!どこの誰がそんな事で深めるのよ!
誰もやらんから、こそだろう!私たち3人だけの全裸タコ寝だ!!!
まぁ、わらわは元から全裸だから構わんがの…。
ズーミちゃんまで!?

 お別れの夜。最後の時までいつも通り。

 この時間。この時間だ。この時が杞憂(きゆう)やあらがいより、楽しむ事を大切にしようと思わせた。


 結局最後の夜は、全裸二人と寝間着の私。

 仲良く三人タコをかぶって寝た。最強のタチの腕枕で…。




 起きたら、なぜか、私も全裸タコだったけど…。

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登場人物紹介

[ナナ]

死んでもやり直し、同一の主観を持つ転生を繰り返している。

タチと出会い今、この瞬間、しがみ付いてでも離したくない思いを知る。

言葉の人。

「美味しいもの食べてる時が一番幸せ!」

[タチ・ユリ]

なんでもいける素敵ビッチ。

男も女も抱くし、責めも受けも味わう遊牧民の子。神を抱く女。

今を楽しむため、強靭で健康な肉体を悪魔と契約して手に入れた。

代償は寿命の半分と、子を宿す力。

肉体の人。

「うるさい。抱くぞ?」

[ズーミ]

水の化身。

化身として新米なため、のじゃ喋りで威厳を持たせようとしたりする。

人間大好き。

情の人。

[ユニコーン]

やっかい処女厨。

ナナが好き。タチが嫌い。

ナナを見守っていたくて、出会った時から追っかけをしている。

おぼれる人。

[ヒタム・ストレ]

前職をタチのせい(?)で追われ、新たな主人としてナナを追っかけている。

騎士でいたい人。

[黒衣の人(ポチ)]

増えた世界から、まっとうに転生してきた人。

奴隷を買いハーレムを築いたが虚しさを覚え、刺客としての役割を果たす。

タチは抱きたがっている。

寂しいおじさんの人。

「世の中を大切にしたいと思うわけがない、大切にされた覚えがないからな。」


[アチャ]

火の化身。

火の大陸で自らを神と呼ばせ、人を手下として使っている。

お気に入りの国に肩入れしたりもしてる。

[ナビ]

風の化身。

酒場でバイトしたりしている。

ウゴゴゴゴォ

[おばーちゃん]

「素敵じゃないの」

新機体。主人公だからね!

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