第23話 タコの日。
文字数 2,772文字
北へと向かう船を待つ間。
相変わらず私たちはピチョンの港を満喫していた。
やらなきゃならない事を差し置いて…。
今日が最終日の宿屋の一室。
頭にタコのお面をかぶった、ズーミちゃんが申し訳なさそうに頭を下げる。
同じくタコのお面をかぶった私は、ズーミちゃんに[タコタコ焼き]を一つ差し出す。
パン生地の中に大きなタコが一粒入った、一口サイズの焼きパンだ。
昨日今日とピチョンは海祭り。
ズーミちゃんの家、アルケー湖みたいに色んな出店が広がっている。
私も楽しんでるけど、特にズーミちゃんはお祭りが大好きみたい。
ここ二日、子供みたいにはしゃいで楽しんでいる。
タチは…年中一人お祭り状態だから。
二人と出会ってから今日までを思い出す。
ろくでもない記憶も沢山あるけど、ここ数日の楽しい毎日が補正をかける。
それもまた、よかったと。
ズーミちゃんが神様にとっても敬意を抱いてくれてるのはわかる。
けど、申し訳ないが今の私は一応人間。たいしたもんじゃない。
それこそを望んで人になったのだけど、全体を把握し理解しようと思うと限界がある。
剣を奪おうとして失敗し、落ち込む。
イトラの行動に疑問を持ち、不安になる。
そんな時間の使い方はもったいないと思ったのだ。
ズーミちゃんやタチと過ごす楽しい毎日を味わうべきだと。
小さく笑顔をみせ、ズーミちゃんが右手を差し出す。
その手のひらには綺麗な水色の宝石みたいなものが、ちょこんと置いてある。
キラキラと、ズーミちゃんの体と同じ色にきらめく宝石だ。
人差し指と親指でつまんでロウソクの光に見透かす。
深みと
懐かしいような、不思議な感覚。
神と化身。二人の微妙な関係は、今や友と呼べる関係になっていた。
一緒に寝て、一緒に食べて、たくさん話すことによって。
少なくとも私は、そう思っている。
私の大切な大親友。ズーミちゃん。
ドンドン
部屋の扉を叩く、太い音がした。
声の主はタチ。どうやら軽く体当たり?しているようだ。
他人がいるとまずいので、ズーミちゃんはベッドの脇に身を隠し、私が扉を開く。
扉の向こうには、真っ赤なタコのぬいぐるみ。
しかもタチが見えないほど大きい。
私の横を抜け、ぬいぐるみをベッドに放り投げるタチ。
むぎゅ。

気の良い奴だ。変態だけど。
恥ずかしそうに、貰ったタコぬいぐるみを抱きしめ顔を埋めるズーミちゃん。
小さい体でそれは反則だよ…!友よ!
ついでにタコの頭も。
二本の剣を壁に立てかけ、ブーツを脱ぐタチ。
その頭には、私たちとおそろいのタコお面。
朝から夕まで三人一緒に祭りを練り歩き、お面はその時ノリで買ったのだ。
日が落ちる頃には「体を動かしたい」と、いつも通りタチは単独行動していた。
私はズーミちゃんの横に座り、二人仲良くお面を被り顔を隠す。
お金が沢山入った音のする革袋が机に置かれた。
もう一度ぎゅっと、タコを抱くズーミちゃんを抱きしめる。
改めて実感してしまった。今日が三人でいる最後の夜。
ぷるぷるふるえるズーミちゃん。
お面の奥には、今にも泣きそうな顔が見え隠れしている。
そんな顔みせられたら、私まで貰いそうになっちゃう。
いつの間にやら全裸で仁王立ちのタチ。
いつも通り隠すつもりが無い…というより、引き締まった体を見せびらかしてくる。
お別れの夜。最後の時までいつも通り。
この時間。この時間だ。この時が
結局最後の夜は、全裸二人と寝間着の私。
仲良く三人タコをかぶって寝た。最強のタチの腕枕で…。
起きたら、なぜか、私も全裸タコだったけど…。