第8話 逃げて欲しい。
文字数 2,777文字
なかなか可愛そうになる対比だが物怖じすることもなく物申す。
ごまかすの苦手そうだな…。
ちょうど人でいう目と口の位置に。
土の化身、ダッドはあたりをゆっくり見渡す。
見るといっても目の位置にあるのはただの穴、彼に視覚があるのかは不明だ。
数々の青い店並びと、色んな「神殺し」と冠したのぼりがたくさん…。
あれもだいぶ広域に被害を及ぼしたようだが、なにより今せりあがって来たその時の動きで、ダッドの周辺にあった十近くの店は全壊していた。
そういえば、目の前のダッドは見覚えがあるのにズーミちゃんに関しては正直覚えがない。
そもそも化身たちに直接あったのが千年ぶりとかだ。
姿かたちに変化があっても不思議じゃないので気にしてなかったけど、確か水の化身は二対の存在だったはず…。
それでもズーミが化身とわかったのは、体内に「神の与えた源」があったからだ。
たしかにアレはかつて私の力だったもの…直接触れたので間違いない。
人間の狭く短い視野で生きていると、わからない事だらけでこの世には理不尽しかない。
今一番世界が見えているのは私の代理。
あれ?私の胸を撫でまわしてたタチがいつのまにか消えてる。
だってタチがはるか上方、ダッドの頭部があった当たりに立っているから。
抜き身の水の剣となくなったダッドの頭部を見るに、タチが切ったのだ。
めちゃくちゃあわててるズーミ。
なぜか、私の胸もチクリと痛む。
また揺れが始まり。地面がせりあがる。さっきと同じサイズものが今度は三つ。
三つのダッドがそれぞれ腕を振り下ろし攻撃をはじめた。
建物、お店、人間に…。見境なく攻撃が襲い掛かる。
逃げるでもなく、手を合わせ天に願っている。
私の困惑と裏腹に、タチはダッドに立ち向かっていた。
一体。また一体。
土の化身の体を駆け上り、その首を落としている。
![](https://img-novel.daysneo.com/talk/ac467f9360dd74b880afa04d5f74db22.jpg)
だがまた新たに出来上がってくるのだ。
切っても切っても常に三体いる状態は変わらない。
私はぼーっと見ていた、取り残された人々と、天に願うおじちゃんを…。
どうしても気になって、人形劇のおじちゃんに話しかけてしまう。
だってこんな状態…。
大地は揺れ、建物は次々にくずれ、化身が戦ってるというのに、傍で跪き祈ってる。
空をみている。
私なんか、まるで存在しないかのように。
つい大声を出してしまった。
だって人の話聞かないんだもん。
できるだけここから遠くに行ってほしい。
特にこの人には。
正直、自分でも何を言っているのかわからない。
どの立場、どの立ち位置で言っているのか。
ともかく、この頑固者が目の前で死なれるのは嫌だ。
ドス!
おじちゃんの腹に拳がめり込んでいる。
ダッドとの戦闘のさなか、颯爽と現れお腹にパンチ。
さすがタチ。強引の化身。
おじちゃんはぐったりと、私の腕に倒れこむ。
なぜ私がお礼を言うのかしっくりこないけど、この言葉が適切な感じがした。
人間になってからというもの、言葉や文字で考える事が多い。縛られている。
汗でしっとりした手で雑に私の頭をグリグリと撫で、タチはまた駆ける。
ダッドの方へと。
なぜだろう。ずっとあるモヤモヤが少し晴れた気がする。
私はおじちゃんを、ひきずりながら運ぶ。それが正しい行動だと信じて。