第14話 力任せ。
文字数 2,553文字
帰りを待つ二人娘を残し、迷うことなく水玉を飛び出す。
水をかく私の手足は前回よりさらに力強い。
なにせ私だ。「神殺し」で「今を愛す女」タチ。
水中の景色を楽しむ事もなく一直線。
再び剣へと手を伸ばした。
水圧とは別の、薄汚くて卑しい圧力が伸ばした右手に入り込む。
指先が黒くなり、手の甲、二の腕までの血管がブチブチと音をたて千切れてく。
帰りを待つ、かわいい二人も私の戦いを見ている。それもまた、たまらない。
無念、喪失…なるほど怒りの感情の次はそういう感じで私の心を揺さぶろうというわけか。
自分の心が感情の荒波にもまれていく。
背中を押す二人の視線が熱い。
あきれ返った冷たい視線なような気もするが、私に届くころには何もかもが熱く燃え上がるのだから、結果的には熱線だ。
混じりまざった負の感情を流し込まれ、神経が損傷し、激しい痛みが体を襲う。
どんなに汚い感情を押し込まれようと、心を掴んで乱されようと、私の湧き上がる熱はとどまることをしらない。
むしろ燃え上がる。
強い気持ち。強い思いは必ず勝つのである。
私は黒々とした剣を手に取り、勝利の雄たけびを上げながら腕を掲げた。
額に手をあて目をつぶるズーミちゃん。
私たち二人の全力での応援もむなしく、神殺しはタチに組み伏せられてしまった…。
あんな化け物が、神殺しを手に入れてしまった絶望に。
私の波乱が近づいた悲しみに。
うめき声がだだ漏れる私。
![](https://img-novel.daysneo.com/talk/9d626599d0d346a2aa63abda05311a22.jpg)
してやったり顔でこちらに泳いでくるタチ。
勝者タチ様が水玉にご帰還である。
神と神の仲間には御法度の剣を持って。
しかし少し剣の様子がおかしい。
ツンツンとズーミちゃんが剣をつつく。神の眷属である化身が触れている。
なにか例えに色がまじってるのが気になるが、神殺しが無力化されたのなら私にとってとても喜ばしい。
自分の強引さを悔やむタチにお説教をくれてやる。
良かった。本当に良かった。絶望の淵に希望ありだ。
剣を向かって声をかける。とっても怪しい絵面だけど、全然受け入れる。
だって一難去ったもん。いいよいいよ。たくさんしゃべりなさい。
剣と。
ズーミちゃんが悲鳴を上げ、私の体がビクンと跳ねる。
剣が黒さを取り戻してる…!
膝がガタガタと怯えて笑うのが止まらない。
神への恨み。禍々しい圧力…。
とっさにズーミちゃんにしがみ付いてしまう。
怒られずに済む道が見えたはずのズーミちゃんも、剣の圧に気おされ涙目で私と抱き合い縮こまる。
今は圧が消えているが、目に入るだけで、心臓が冷える。
滅茶苦茶痛そうなのはもちろん。本当に死ぬのだろうか?
つまり人のように神様も終わるのだろうか?
今この体で斬られたら、転生を断ち切るぐらいはされそうだ…そしたらどうなるのだろう?
水の化身と、神と、神殺しを持った人間が、水面へと浮上していく水玉の中でよりそう。
宿敵のような、仲良しのような不思議な関係…。
行きと同じく、タチの手に握られているのは私のムネ。
だけどまぁいい。
剣を握られるよりは…。