第14話 力任せ。

文字数 2,553文字

 帰りを待つ二人娘を残し、迷うことなく水玉を飛び出す。

 水をかく私の手足は前回よりさらに力強い。

 なにせ私だ。「神殺し」で「今を愛す女」タチ。


 水中の景色を楽しむ事もなく一直線。

 再び剣へと手を伸ばした。

(片腹痛い。この私の我に影響を与えようなどと…!)

(誰に喧嘩を売ったか思い知らせてやる…!)

 水圧とは別の、薄汚くて卑しい圧力が伸ばした右手に入り込む。

 指先が黒くなり、手の甲、二の腕までの血管がブチブチと音をたて千切れてく。

(面白い!面白いぞ!)

 帰りを待つ、かわいい二人も私の戦いを見ている。それもまた、たまらない。


 無念、喪失…なるほど怒りの感情の次はそういう感じで私の心を揺さぶろうというわけか。


 自分の心が感情の荒波にもまれていく。


(くだらない!私は負けない!私は強い!私はエロい!!)

(見ていろ!私の勇士を!)

 背中を押す二人の視線が熱い。

 あきれ返った冷たい視線なような気もするが、私に届くころには何もかもが熱く燃え上がるのだから、結果的には熱線だ。

(貴様もだ!神殺し!)
 じっとりじっとり柄へとにじり寄る。

 混じりまざった負の感情を流し込まれ、神経が損傷し、激しい痛みが体を襲う。

(私のモノになれ!私の…!)

 どんなに汚い感情を押し込まれようと、心を掴んで乱されようと、私の湧き上がる熱はとどまることをしらない。

 むしろ燃え上がる。


(帰ったら抱いてやろう、ズーミもナナも全部全部!お前にも見せつけてやるからな…神殺し!)
(私は全てを愛せる!もっともっと全力で打ち負かしに来い!!)

 強い気持ち。強い思いは必ず勝つのである。

 私は黒々とした剣を手に取り、勝利の雄たけびを上げながら腕を掲げた。


 一方その頃、ナナ達はというと。
あちゃ~まずいの…手に取りおった…。

 額に手をあて目をつぶるズーミちゃん。

 私たち二人の全力での応援もむなしく、神殺しはタチに組み伏せられてしまった…。

あ…あぁ~…あぁ…!

 あんな化け物が、神殺しを手に入れてしまった絶望に。

 私の波乱が近づいた悲しみに。

 うめき声がだだ漏れる私。

どうしよう…他の化身に怒られてしまう…神様すまぬ~!
すまぬじゃすまない…すまないよ~!!

 してやったり顔でこちらに泳いでくるタチ。


(やだ!だめ!そんな物騒なモノ持って帰ってこないでよ~!!)
まてまてタチ!わらわそれに近寄れんし…あれ?
ザプン。

 勝者タチ様が水玉にご帰還である。

 神と神の仲間には御法度の剣を持って。

犯ったぞ!!
 戦利品を再び掲げるタチ。

 しかし少し剣の様子がおかしい。

…なんか灰色になってない?
圧も消えておるな…?
 真っ黒だった刀身が少し白みがかっていた。

 ツンツンとズーミちゃんが剣をつつく。神の眷属である化身が触れている。


(ということは、剣の持つ独自の力が消失した?)
そんな…!まさか…死んだのかお前!?
 タチが愕然と剣を見る。死ぬとかあるの…?それ?
もともと生きとらんじゃろ。
力任せに屈服させたからな…こう絵にすると頭を掴んで強引に後ろから…。

 なにか例えに色がまじってるのが気になるが、神殺しが無力化されたのなら私にとってとても喜ばしい。

 

やっぱり、それぞれの意志とか気持ちとか大事にしないとね…!

 自分の強引さを悔やむタチにお説教をくれてやる。

 良かった。本当に良かった。絶望の淵に希望ありだ。

負けるな!神殺し!お前はその程度じゃないだろう!

 剣を向かって声をかける。とっても怪しい絵面だけど、全然受け入れる。

 だって一難去ったもん。いいよいいよ。たくさんしゃべりなさい。

 剣と。

私と戦ったお前はもっと薄汚く粘り強かったじゃないか!!
(まるで戦地で相まみえた、好敵手への言葉みたい)
…ひっ!?

 ズーミちゃんが悲鳴を上げ、私の体がビクンと跳ねる。

 

 剣が黒さを取り戻してる…!

良い子だ。やればできる子だ!そうでないとな!
ちょっとまって!そんなことある!?

 膝がガタガタと怯えて笑うのが止まらない。

 神への恨み。禍々しい圧力…。

 

 とっさにズーミちゃんにしがみ付いてしまう。

そうじゃそうじゃ!さっき死にかけてたじゃろう!なんでそうなるんじゃ!最初からずっとデタラメじゃ!!

 怒られずに済む道が見えたはずのズーミちゃんも、剣の圧に気おされ涙目で私と抱き合い縮こまる。


なんでといわれても…気のものだろうしな。
(軽い!確かに、そもそも人の意志で力の宿った剣だけど…!)
とはいえ・・・元気はないようだ。
 剣が力を取り戻したのは一瞬で、スゥゥと黒味が引いて圧が消える。
死んだ…というより引きこもった感じじゃったのか…?
のようだ。激しいぶつかり合いだったからな。少し休ませてやろう。
のようだ。じゃない。それじゃ困るよ!
 ズーミちゃんと二人抱き合ったまま声を荒げる。
なぜだ?意思や気持ちは大事なのだろう?大切にしてやらんとな。
う゛…。

(ちゃんと聞いてたんだ私の説教。他人を尊重する姿勢…それはとっても大切…でも。でも!)

そう怯えるな。乗りこなしてやるさ。
(使いこなされたら困るの!あなたの目的も剣の思いも成就(じょうじゅ)した日には…!)
(神殺しの剣…これで斬られたらどうなるんだろう…?)

 今は圧が消えているが、目に入るだけで、心臓が冷える。

 滅茶苦茶痛そうなのはもちろん。本当に死ぬのだろうか?

 

 つまり人のように神様も終わるのだろうか?

 

 今この体で斬られたら、転生を断ち切るぐらいはされそうだ…そしたらどうなるのだろう?

手間取らせた、次はナナの目的地だな。パンテオンだったか?共に行くぞ。
(もっともっと手間取ってほしかったですけど…。)

(何にしても…今の私じゃわからないことだらけ。元に戻ってみないと。そのためにともかく聖地へ…)

神殺しと旅か…ゾッとするの
(そうなんだよズーミちゃん!しかも私標的の神様なんだよ…。)

 水の化身と、神と、神殺しを持った人間が、水面へと浮上していく水玉の中でよりそう。


 宿敵のような、仲良しのような不思議な関係…。

狭いからな。狭いから。

 行きと同じく、タチの手に握られているのは私のムネ。

 だけどまぁいい。

 

 剣を握られるよりは…。

上にあがったら、今度こそ抱いてやるからな。今の私は無敵だぞ。

(やっぱり良くない。色々どうにかしないと!)

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登場人物紹介

[ナナ]

死んでもやり直し、同一の主観を持つ転生を繰り返している。

タチと出会い今、この瞬間、しがみ付いてでも離したくない思いを知る。

言葉の人。

「美味しいもの食べてる時が一番幸せ!」

[タチ・ユリ]

なんでもいける素敵ビッチ。

男も女も抱くし、責めも受けも味わう遊牧民の子。神を抱く女。

今を楽しむため、強靭で健康な肉体を悪魔と契約して手に入れた。

代償は寿命の半分と、子を宿す力。

肉体の人。

「うるさい。抱くぞ?」

[ズーミ]

水の化身。

化身として新米なため、のじゃ喋りで威厳を持たせようとしたりする。

人間大好き。

情の人。

[ユニコーン]

やっかい処女厨。

ナナが好き。タチが嫌い。

ナナを見守っていたくて、出会った時から追っかけをしている。

おぼれる人。

[ヒタム・ストレ]

前職をタチのせい(?)で追われ、新たな主人としてナナを追っかけている。

騎士でいたい人。

[黒衣の人(ポチ)]

増えた世界から、まっとうに転生してきた人。

奴隷を買いハーレムを築いたが虚しさを覚え、刺客としての役割を果たす。

タチは抱きたがっている。

寂しいおじさんの人。

「世の中を大切にしたいと思うわけがない、大切にされた覚えがないからな。」


[アチャ]

火の化身。

火の大陸で自らを神と呼ばせ、人を手下として使っている。

お気に入りの国に肩入れしたりもしてる。

[ナビ]

風の化身。

酒場でバイトしたりしている。

ウゴゴゴゴォ

[おばーちゃん]

「素敵じゃないの」

新機体。主人公だからね!

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