第59話 雲の上。
文字数 2,406文字
文字通り。
ナビが用意してくれた移動手段、それは「雲」
彼女が空に手を伸ばし。雲をつまんで千切る。はい。出来上がり。
なんと便利で素敵な乗り物だろう。
私、タチ、ズーミちゃん、ユニちゃん、ナビの5人で高い高い空の旅。
二か所同時襲撃されたのだから、しかたがないとはいえ、合流してさっそくの別行動。
雲の下の小さく見える地上をみていると、馬で駆ける二人を想像して、少し寂しく感じてしまう。
言い切るタチに、口ごもる私。
少しだけ知った「彼の過去」を考えると、心配にもなるでしょうよ。
主に精神面で。
彼にとってはそれが救いだったのだろうけど…。私合流してから「わん」って鳴き声しか聞いてないんだよ?
しかも付添人が、泣き顔全一のストレちゃんだ。不安にもなる。
私より遥かにしっかり者の水の化身。私の親友で私のママ(仮)。
ふわふわの雲の上、輝く太陽が彼女の透き通る体を、美しく
確かに。眺めはいいけど風当たりが強いし、少し乾燥してる。
太陽との距離だって近いしね。なにせ、雲の上だから。
雲の主。風の化身ナビが、乗っている雲を少しつまみ、風よけ用の小さな仕切りを作ってくれた。
なるほど、そんな簡単便利に加工までできるのか。使い勝手のよさそうな能力だ。
私がタチと合流してから、ずっとユニちゃんの世話(静止)役をしてくれている青い親友。
ユニちゃんの怒りの矛先が向かう当の本人、タチはと言うと、無自覚に煽るか、挑発してしまう性分なので放っておくと場が荒れる一方。
処女狂いと変態は一向に交わることもなく…。
結局、暴れ、噛みつき、歯ぎしりするユニちゃんを、ズーミちゃんが一番上手に
もちろん私も当事者の1人。私がタチと仲良くしているだけでも、ユニちゃんは気に食わない。
でも、ごめんね。そもそもタチと合流することが目的で、私はここまで来たんだから。
そんな自分勝手に振舞っておいてなんだけど、ズーミちゃんにはとっても感謝している。
怒り狂うちびっ子の事だけではない、ここまでくる道中も、いち早く味方してくれたことも、私に源の力を貸してくれてることも…。
これほどお世話になっている友は、他にいない。
自らの後頭部を撫で、照れる私と。胸を張るタチ。
雲に乗って10分たたずで、すでにタチに押し倒されてる。2度ほど。
理由はタチが今言った通り。私も一応口では抵抗したのだ…。
最初だけ。
目線を反らして、言いにくそうに忠告してくれるズーミちゃん。
申し訳なさで、ぺこぺこ頭を下げるしかない私。
ナビが、いつの間にか仕切りで隠してくれたとはいえ、見境も節操もなく…。
わかっているのだけれど、タチに迫られると断れない。
ずっと…できればずっと一緒にいたいのだ。何年といわず、何億年でも。
スブッ!!
大きな音に振り向くと、ユニちゃんがタチのわき腹に頭突きをかましていた。
何度もみた光景である。
ほら、また無自覚に煽るような事を…。
刺さった角で、ぐりぐり
ユニちゃんはタチに触られるのが死ぬほどいやそうだけど、それでも攻撃せずにはいられないようだ。
次に地上に降りる時は、ダッドとの…そして光の化身イトラとの対決がまっているというのに、仲間内で小競り合いを繰り返してる。
統率性も、緊張感も欠片もない。
どうしようもないただの内輪もめ。
今しがた忠告をうけたばかりだし、ユニちゃんにもうしわけないし…。
意外に乗り気なナビの存在もきになるが。
さすがにちょっとね?
神として…とじゃなくて人として?わきまえた行動をしないと。
そう口にしたらタチに笑われそうだから言わないけど。
ブス!!!
私が苦笑いしながら、迫るタチを押し返していると、再び音がする。
ユニちゃんが溢れる殺意でもって、助走をつけてタチに「刺さり直した」音だ。
飛び散る血飛沫、響く大笑い。微笑む風の化身。迫られるのが嫌じゃない元神。
いったいこれはなんなのだろう?
仕切りの向こうから叫ばれる親友の怒号。
いや、あれは育児に疲れた母親の声かも?
本当にどうしようもない、集まりである。きっと馬で地をかける二人もしょうもない事になっているのだろう。
でも、もしかしたら、これこそが、仲間なのかもしれない。
たぶん。
正直違う気もするけど。
