第10話 媚びろ!ってなんだ!
文字数 3,221文字
至近距離で攻防を繰り広げているタチにはわからなかったのかも。
けど確かに、ダッドが大きくなってる。
ギュムギュム!
唐突に3体の土の化身がくっつき、滅茶苦茶大きな一つの塊となった。
傍から見るとだいぶ
どういう心の流れをしてるのだろう?
額に流れる汗は増え、動きの切れがなくなっているのが私でもわかる。
でも想いは力!!
せめて全力で応援しようとする声に割って入られた。
…あれ?タチさん、どうしてそうなるの?
健気にも、人々のために戦うあなたの勇士を称え声を出そうとしたんだよ?
バカヤローと叫ぶかの二択は少し迷った。
変わらず、引かず、悪びれず。
彼女という存在を学べていない私が悪いみたいだ。
正しい姿勢を示すかのように、神様を急かすタチ。
えぇい。「恥ずかしい」とか「なんで?」とか迷っている場合か!
実際に戦ってくれている、彼女の助けになるというなら従うのみ!
別に損するわけじゃない!
ここ一番の怒号が敵ではなく私に降り注ぐ。
なぜ…!!
その思い、殴り合ってる相手にぶつけてよ…!
ドゴン!
寝返ってやろうか…。
そんな思いが脳裏に浮かんだその時、高い所で鈍い音がした。
ダッドの振った大きな腕をかわし損ねたのだ。
先ほどまでと大きさも距離感も違う相手にたまる疲労…。
いつかこうなるのは必然だった。
タチは相手の体を駆け上り、攻防を繰り広げていた。
撃ち落とされる形で攻撃を食らった彼女が、宙に舞い落ちてくる。
ともかく駆け寄る私。
足が動く、全力で。私は死んだって次がある。
せめてクッション代わりにでもなれれば。
どうにか、ギリギリ受け止めッ――。
ドプン。
目の前に青い玉が広がる。
もっちゃりした水音にタチが包まれた。
全力で走っていた私もその水玉につっこむ。
見たことのある粘度の高い水の玉。
タチが水攻めを楽しんでだヤツだ。
そこには両腕を組んだ水の化身が立っていた。
私は、水に受け止められ沈んだタチを、息ができるように抱えて持ち上げる。
一方ズーミは、ダッドを睨みつけて向かい合った。
タチの容体を確認し、私は声を張り上げたズーミちゃんを見た。
その小さな体から迷いは消え、強い意志がみなぎっている。
タチの事が心配で、話をちゃんと聞いてなかったけど、なんとなくノリで同意しておく。
もちもちって単語は聞こえたし。
さすがタチ、言葉通り常人じゃない。
むにむにむに。
水玉の中、意識の無いタチが沈まぬように抱きかかえた、親切な私…私の胸に。
顔をグリグリと押し付けビッと親指を立てるタチ。
さすがタチ、言葉通り常識人じゃない。
ドパァン!
ズーミが腕を上げると、水の玉が伸び私とタチを、ダッドの方へと流れ運ぶ。
なんと楽ちん。
右腕が紫色に腫れている…さっき攻撃を受けた部分だろうか?心配だ。
ダッドの攻撃を
私はバランスをとりつつ目を凝らす。
その向こうの方でなんか叫んでる。

どっちも耳に届きまくってるけど。
まるで通り魔。でもちょっとだけ嬉しい。
連続した斬りで、細切れになる土の体。
続いて跳ねた私が、崩れ落ちる土の中に鮮明に輝くソレに飛び掛かる。
ギュウゥウウ!
ズーミちゃんを握りしめた時と違い、全力で。
パァン!
大きな破裂音と共に高さ十メートルはあったであろう土の塊が一斉に崩れた。
ズーミの操る水流に乗り、タチが私をキャッチする。
もちろん胸は触ってる。
完全に変態で、犯罪だけどでもまぁいい。
今はこのピンチを打開できた喜びと安堵で胸がいっぱいだ。
…私の応援が下手だったばかりに負けたのかも?とか、ちょっと思っていたから。
今朝と同じ三人でのわちゃわちゃがまた始まった。
崩れてしまった店並や、タチのダメージは心配だけど、とりあえず一安心ということで。