第10話 媚びろ!ってなんだ!

文字数 3,221文字

 いつ終わるともしれない戦闘が続く。[無い無い]の私にできる事なんて当然ない。
タチ!!
なんだ!
なんかおっきくなってる!!

 至近距離で攻防を繰り広げているタチにはわからなかったのかも。

 けど確かに、ダッドが大きくなってる。

 

ギュムギュム!

 唐突に3体の土の化身がくっつき、滅茶苦茶大きな一つの塊となった。


まだ、芸を隠していたとは…悪くないぞ!

 傍から見るとだいぶ窮地(きゅうち)に見えるけど、タチ的には嬉しそうだ。

 どういう心の流れをしてるのだろう?


ナナ!
なに!
もっと応援してくれ!!
(やっぱり追い詰められているんだ…!)

 額に流れる汗は増え、動きの切れがなくなっているのが私でもわかる。


そんなものでよければ!がんば――
 声援なんかにすがるほど…余力がないんだね…!

 でも想いは力!!

 せめて全力で応援しようとする声に割って入られた。

違う!なんかこう…もっと媚びた可愛いヤツをくれ!!!
(…タチさん?)

 …あれ?タチさん、どうしてそうなるの?

 健気にも、人々のために戦うあなたの勇士を称え声を出そうとしたんだよ?


えっと…なんでー!?
 ちゃんと彼女の耳に届くよう大きな声で伝える。

 バカヤローと叫ぶかの二択は少し迷った。

元気が出るからだ!早く媚びろ!!!
(ぐぬぬぬ…!)
 なんか私怒られてますか?

 変わらず、引かず、悪びれず。

 彼女という存在を学べていない私が悪いみたいだ。

思いは力だぞ!!早く媚びろ!!!
良いコト風に言わないでよ!

 正しい姿勢を示すかのように、神様を急かすタチ。

 えぇい。「恥ずかしい」とか「なんで?」とか迷っている場合か!

 実際に戦ってくれている、彼女の助けになるというなら従うのみ!

 別に損するわけじゃない!

タ…タチすてきぃ~!かっこいぃー!
ふざけているのか!!!

 ここ一番の怒号が敵ではなく私に降り注ぐ。

 なぜ…!!

 その思い、殴り合ってる相手にぶつけてよ…!

 

媚びた可愛い応援ってどうやればいいのさ!
 昔の事はだいぶ忘れているけど、13回の人生でたぶん一度もしたことはない。
愛と欲情を込めてだな――

ドゴン!

 寝返ってやろうか…。

 そんな思いが脳裏に浮かんだその時、高い所で鈍い音がした。


タチ!!

 ダッドの振った大きな腕をかわし損ねたのだ。

 先ほどまでと大きさも距離感も違う相手にたまる疲労…。

 

 いつかこうなるのは必然だった。

 

 タチは相手の体を駆け上り、攻防を繰り広げていた。

 撃ち落とされる形で攻撃を食らった彼女が、宙に舞い落ちてくる。

(あの高さじゃ死んじゃう!)
 意識がないのかぐったりしたまま落下してる。

 ともかく駆け寄る私。

(受け止めに行く意味なんてあるのかな…!?これ…!?)

 足が動く、全力で。私は死んだって次がある。

 せめてクッション代わりにでもなれれば。 

 

間に合って…!!

 どうにか、ギリギリ受け止めッ――。


ドプン。

 目の前に青い玉が広がる。


 もっちゃりした水音にタチが包まれた。

 全力で走っていた私もその水玉につっこむ。


 見たことのある粘度の高い水の玉。

 タチが水攻めを楽しんでだヤツだ。


無謀じゃな。間に合ったとしても、二人ぶつかって共倒れするだけじゃろ。
ズーミ!
 ぱちゃりと、水から顔を出した目の前。

 そこには両腕を組んだ水の化身が立っていた。

ナンノ…ツモリダ…
 空がしゃべっているみたいに、高い高い所からくぐもった声がする。
こちらのセリフじゃ。わらわが引き継いだ地で勝手をしおって!

 私は、水に受け止められ沈んだタチを、息ができるように抱えて持ち上げる。

 一方ズーミは、ダッドを睨みつけて向かい合った。

人と化身なら化身につく…と言いたい所じゃが…。
勝手に我が地を荒らすアホウと、おいしいもちもちを作るおじさんならば別!!
ゲホッ…!ゴホッ…!
(良かった生きてる!)

 タチの容体を確認し、私は声を張り上げたズーミちゃんを見た。

 その小さな体から迷いは消え、強い意志がみなぎっている。

素敵なおじさんにつくのがどおりじゃ!
そうだ!そうだ!

 タチの事が心配で、話をちゃんと聞いてなかったけど、なんとなくノリで同意しておく。

 もちもちって単語は聞こえたし。



タチ、おぬしまだ戦えるか?
まかせろ
 さっきまで意識が飛んでいたのに、闘志は萎えていない所か、目のギラ付きが激しくなっている。

 さすがタチ、言葉通り常人じゃない。

本当に大丈夫…?

むにむにむに。

 水玉の中、意識の無いタチが沈まぬように抱きかかえた、親切な私…私の胸に。

 顔をグリグリと押し付けビッと親指を立てるタチ。


 さすがタチ、言葉通り常識人じゃない。

全快した。まかせろ。
移動はわらわが(にな)おう!

ドパァン!

 ズーミが腕を上げると、水の玉が伸び私とタチを、ダッドの方へと流れ運ぶ。

 なんと楽ちん。

ナナ!おぬし、わらわの源の場所を正確に見抜き、つかみおったな!
えっ…うん…!
(私が神様だって…もしかしてバレた!?)
ダッドの一部分と言えど、ある程度の密度をもてば源の力も塊がある!だからこそのパワーアップ!
…そうか!

(確かに、3体に分かれていたときは感じなかったけど、今はかすかに懐かしさを感じる。化身達に神が分け与えた[源の力]…!)

作があるんだな?
 流れる水に乗り、剣を構えるタチ。

 右腕が紫色に腫れている…さっき攻撃を受けた部分だろうか?心配だ。

ダッドの源の位置はどこじゃ!?おぬしなら、わかるのじゃろう!
ちょっとまってね!

 ダッドの攻撃を(かわ)すため、ウネウネと蛇行する水流。

 私はバランスをとりつつ目を凝らす。

 

(焦るな…焦るな…えっと、えっと…)
かわいいぞナナ!今すぐ抱いて可愛がってやりたいほどだ!!
 ダッドの縦ぶりの攻撃を避けるため、私とタチを二手に分かれさせた水流。

 その向こうの方でなんか叫んでる。

小娘の邪魔をするな色ぼけ!!
 後ろの方でも何か叫んでる。

 どっちも耳に届きまくってるけど。

正しい応援の仕方をだな――
緊張感をもてんのかおぬしは!
どっちも気が散るんだけど!!…ん?
太陽光が水流に反射した輝きかな…?今キラリと――
見つけた!左の肩!でっぱてる所のあたり!
良い子だ!
 分かれていた水流が再び繋がり、タチと合流しざまに頭を撫でられた。

 まるで通り魔。でもちょっとだけ嬉しい。

運ぶぞ落ちるなよ!
 ズーミの声で水流が加速し、ダッドの左肩へと向かって弧を描く。
続け!私が露払う!!
うん!
 空中で襲い来るダッドの攻撃を斬撃と水撃が撃ち落とし、先に飛んだタチが肩の出っ張りに斬りかかる。

 連続した斬りで、細切れになる土の体。

(…見えた!)

 続いて跳ねた私が、崩れ落ちる土の中に鮮明に輝くソレに飛び掛かる。


ガ…!?
 表情の読めない土の化身の顔に、驚愕が浮かんだ。 
ごめんね!!

ギュウゥウウ!

 ズーミちゃんを握りしめた時と違い、全力で。



(ごめん!ホントごめんね!)
ゴッガ…!ガ…!
 ダッドが苦しそうにひとしきり暴れ、やがて固まる。
ガァアアァアア!!!

パァン!

 大きな破裂音と共に高さ十メートルはあったであろう土の塊が一斉に崩れた。

やった…!
 空中に放り出され、土と一緒に落下する私。
よくやったぞナナ。握った拳が可愛らしいな!

 ズーミの操る水流に乗り、タチが私をキャッチする。

 もちろん胸は触ってる。


 完全に変態で、犯罪だけどでもまぁいい。

 今はこのピンチを打開できた喜びと安堵で胸がいっぱいだ。

 

 …私の応援が下手だったばかりに負けたのかも?とか、ちょっと思っていたから。



(まぁ。まぁ。今ぐらいは、胸ぐらいは。)
後で褒美に抱いてやるからな!たっぷり味わうんだぞ?
 タチが王子様のごとく、私のおでこにキスをした。
誰にとってのご褒美よ!?
双方にとってだ!!
おい!いちゃつくのは良いが暴れるな!振り落してしまう!

 今朝と同じ三人でのわちゃわちゃがまた始まった。

 崩れてしまった店並や、タチのダメージは心配だけど、とりあえず一安心ということで。

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登場人物紹介

[ナナ]

死んでもやり直し、同一の主観を持つ転生を繰り返している。

タチと出会い今、この瞬間、しがみ付いてでも離したくない思いを知る。

言葉の人。

「美味しいもの食べてる時が一番幸せ!」

[タチ・ユリ]

なんでもいける素敵ビッチ。

男も女も抱くし、責めも受けも味わう遊牧民の子。神を抱く女。

今を楽しむため、強靭で健康な肉体を悪魔と契約して手に入れた。

代償は寿命の半分と、子を宿す力。

肉体の人。

「うるさい。抱くぞ?」

[ズーミ]

水の化身。

化身として新米なため、のじゃ喋りで威厳を持たせようとしたりする。

人間大好き。

情の人。

[ユニコーン]

やっかい処女厨。

ナナが好き。タチが嫌い。

ナナを見守っていたくて、出会った時から追っかけをしている。

おぼれる人。

[ヒタム・ストレ]

前職をタチのせい(?)で追われ、新たな主人としてナナを追っかけている。

騎士でいたい人。

[黒衣の人(ポチ)]

増えた世界から、まっとうに転生してきた人。

奴隷を買いハーレムを築いたが虚しさを覚え、刺客としての役割を果たす。

タチは抱きたがっている。

寂しいおじさんの人。

「世の中を大切にしたいと思うわけがない、大切にされた覚えがないからな。」


[アチャ]

火の化身。

火の大陸で自らを神と呼ばせ、人を手下として使っている。

お気に入りの国に肩入れしたりもしてる。

[ナビ]

風の化身。

酒場でバイトしたりしている。

ウゴゴゴゴォ

[おばーちゃん]

「素敵じゃないの」

新機体。主人公だからね!

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