第25話 いつの日か。
文字数 3,166文字
目が覚めると、そこは豪華なお部屋のベッドの上。
壁にも天井にも細かな堀細工が施され、
船の中なのに贅沢な…。
机の上には銀食器、色とりどりの果物まで…。
ズキズキ痛む頭を押さえながら、ベッドの柔らかさを感じる。
確か、賭けたのは私たちの船券とタチ自身。と言っていた。
声のした方、つまりすぐ隣を見たら全裸のタチがいた。
だけど今更その程度では驚かない。
これまで散々同室で夜を明し、そのほとんど全裸で彼女は寝ていたから。
言ったタチの視線をたどる、その先には私の裸。
上半身を起こした際、真っ赤な掛布団がずり落ちて丸見えだ。
何しろ昨日はお酒にやられていた、何かしでかしていてもおかしくはない。
慌てて掛布団で体を隠し、思い出そうと頭を探る…。
やめよう。ズキズキと痛みが増すだけだ。
掛布団を身に絡ませ、脱ぎ散らかした洋服を集める。
床に荷物が散らばっている、酔って転んだりしたのだろうか?
後で、お片付けしないと。
投げつけた、いつも身に着けている手袋がタチの顔に命中する。
もう一つの手袋がタチの顔に命中する。さっきより強く。
ドガ!ドガ!
私の靴が二つ。全力でタチの顔に打ち込まれる。
投げつけた後に、ちょっとやり過ぎか?とも思ったが、相手がタチなのでいいだろう。
目をつぶり親指を立てるタチ。
その時の事を思い返してだろう、悔しそうに歯を食いしばる…。
記憶の無い私には、確かめるすべがない。
不安と焦りが胸いっぱいに広がる。
真剣にまじめーに。頷くタチ。
ちょっとばかし食い意地が張ってて、ちょっとばかし脇の甘い、自分の首を取ろうとするものに介護されるような、能も才も持ってないだけのこの私が?
自分で言ってて思い知る。
やらかしてそうだ。っと。
そう。タチも子を作れない。
寿命と一緒に。自らの選択で捧げたから…。
それはずっと、なんとなく気になっていた、いたのだが…。
こんな失礼な
タチは私の「人として」と言った部分を「負い目」と解釈しているみたいだ。
私が人として、子孫を残せないことを、複雑に思っている…。と。
正解は「実は神で、人間やってるうちに、肉体関係を経験してみたいなー。」程度のことなのだが。
タチにどうこう言うつもりなんて、なんにもないのだ。
私自身の、生殖行為への苦手意識の問題というだけで。

目覚めてからずっと、船はいつも通り揺れていたが気にも留めてなかった。
ブドウ酒のおかげか、はたまた最強のタチまくらのおかげか…。
腕をつかまれ引き寄せられた。
ボフリ。
全裸のタチが横たわるベッドに、私は倒れこむ。
抱き寄せられ、頭をゆっくり撫でられる。もう何度も経験した。
重ねるごとに、気恥ずかしさは薄れ、安心感しか湧き上がらない。
出会った当初から、その一点張り。
でも言葉を受け止める、私の心が少し違う。
タチは今。どういう気持ちで私を見つめているのだろう?
一度はつまんでみたい女の子?体?中身?いったいどこに興味を持ってくれてるんだろう?
自然と返事を返してしまった。
撫でられる、頭と同じように、体も重ねるごとに温かさを与えてくれるものなのだろうか?
なんとなく。私の方からもタチに抱き着く。
温かさ。柔らかさ。なにより…芯の強さ。
ついでに、はしたなさを体中で感じ取る。
これがタチなのだから。