第33話 抱かれるべき。
文字数 2,281文字
私を護るように立つストレが、黒衣の男に槍を向ける。
敵わないとわかっていても、彼女は義理を通す。
今までの生き様を貫いて。
剣で指し示されたのは私。
なんのことだ?時の化身?そんな化身、聞いたことが無い。
だが彼が、イトラの命令で動いているのは間違いなさそうだ。
男がストレの槍を叩き落とし、無造作に剣を振った。
どうにか胸当てで受けられたが、ストレは吹っ飛び地面を転がる。
ゆっくり男が剣を振り上げる。
私の首に狙いを定めて。
抵抗のしようがない…今の私では。
能力も才もない…それだけではなく、体に気力が湧いてこないから。
男は首を傾げた。
剣を振り下ろしたはずなのに、私の首がついている。
そして、男の腕が吹き飛ばされたから。
切り落とされた腕を拾い、何事もなかったかのようにくっつける男。
タチの回復能力をはるかに凌ぐ、凄まじい再生能力だ。
バチィン!
普通の剣と違い、変化の大きな水の剣は不自然な軌道で男を襲う。
多少の斬り傷などお構いなしで、雑な防御をする黒衣の男。
水の剣が頬をかすめても、次の斬撃が襲う前に傷口はふさがっている。
バチ!バチ!
水色と黒の線が
男のつけたばかりの右腕はまだ完全じゃないらしく、動きが鈍い。
だから、どうにか勝負になっているようだ。
後悔したくない。
後ろから黒衣の者に体当たりをした。今の私ができる最大の攻撃。
私を見つめるタチの顔が苦しそうに歪んでいる。
嫌だな、そんな顔でのお別れは…。
どうせ、私は生まれ変われる。
もしかしたら、またタチに会えるかもしれない。
なにより、彼女を失うのが嫌だ。
体は勝手に動いてくれて、男を離さないと決めていた。
死ぬまで。
ブシャアア!
突然、水飛沫があがった。
血ではない。ただの水が。
男を掴んだ私の手から。
誰一人として状況がつかめていない。
でも、懐かしい感じがする。
私の右手袋の内ポケットから…。
親友のくれた贈り物。
小さな青い宝石の中に隠されていたのは、神の力「源」だった。
でも、そうするとズーミちゃんは大丈夫なのだろうか?
色々ぐるっと回った頭の中で一つの答えが浮かぶ。
青い宝石は私の右手の中に入り、その輝きが薄れていく。
私の体内に戻った源は、渡した時とは違う青い色身を帯びていた。
水の化身に同化し長い年月を共にした結果だろう。
テラロックとペタロック。そしてズーミへと受け継がれた源の力。
その一つが今私の元へ…。
力を込めて拳を握ってみる。
手が水の球に包まれ覆われた。
見覚えのある水の力を見て、タチが合点し黒衣の者に向き直る。
相変わらずの、変態的な決め台詞で啖呵を切るタチ。
さっきまでの緊迫感はどこへやら。
私の気持ちなんて置いてけぼりな口上だけど、それでも嬉しい。
タチにはずっとこうあって欲しいもん。